罪ノ子
 全テノ始マリ / 龍二


 店から出ると、太陽は西に傾き街は夕焼けに染まっていた。二人の影が、石の階段の上を細く伸びている。
 龍二は、帰り道とは反対方向の路地裏の階段を上り始めた。

「ぅっ……ずび」

 手を引いた八重の嗚咽が、背後から聞こえる。
 階段を上りきったところは高台の広場で、ベンチくらいしかないが、そこから真下に広がる海が見渡せる。八重をベンチに座らせると、龍二もその隣に座った。
 こんなに毎日一緒にいても、かける言葉が見つからない自分が情けない。ただ繋ぐことしか出来ない手に、ぎゅっと力を込める。

――泣くなよ、八重。

「ひ……っ、ふぁ?」

 ふと、八重が顔をあげた。
 海の淵が茜色の光をキラキラと溶かし、ラベンダーの空は見事なグラデーションに染まっている。
 濡れた頬の八重は、そのまま固まった。
 夕暮れの湿った海風が吹き抜けていく。泣き癖のとれない八重は、ひくっと体を震わせると、ぼんやりと龍二の横顔を見上げた。

「……りゅう」
「ん?」
「夕焼け、……きれい」

 八重の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
 胸の奥が痛くて、うまく息が出来ない。堪らなくなった龍二は、八重の体を抱きしめた。

「んぶっ、痛いよ、りゅう」

 海風にあたって、少し冷えている小さい背中を擦る。とくとくと鳴る八重の鼓動を感じながら顔を上げると、丁度水平線の向こうに太陽が沈むところだった。

――守れるかな。
 こいつ一人くらい、守ってやりたいな。


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