思ノ子
 防衛班就任 / アタル


 それぞれの作戦開始の指示が終わると、各班員はそれぞれの地点での対応に追われ、司令室は混沌とした。
 アタルはたくさんありすぎる画面のどれを見たらいいのか分からなかったが、一番大きなメイン画面に集中していた。そのほとんどが、アグニス班の映像だった。
 レギヲンの機体は動力部分にあたる巨大な石のような部分があって、そこを大破させれば停止する。C点にいる修羅のアグニスが、次々と華麗にレギヲンを仕留めていくのを見ながらアタルは汗ばんだ掌を握った。
 上段にいる調査班のグループから低めの歓声が上がる。

『こちら篤、B点殲滅』

 篤の無線が、ほぼ同時に司令室内に流れた。

「B点、損傷は?」
「予定通り全機を他点に割り振れる」

 全員が一斉に手を上げたのは、C点より一機少ない、A点担当の調査班だった。もともと合流させる予定だったので、善戦しているとはいえぎりぎりの状態らしい。

「了解、そのまま機動班全三機でA点に向かえ。篤はC点へ」
『了解』
「お前の副長、優秀だな。予定より五分も早い」
「!」

 アタルの隣に座っている調査班員がウインクしたので、アタルはぱっと頬を赤くして頷いた。

「なあ、これ」
「ん?」
「やばくないか、六人に一人だけ囲まれてるぞ」

 急に背後からかけられた声に、班員がモニターを動かす。アタルも一緒になって覗き込んだ。

「三番区、ソラ、大丈夫か」

 ぞわ、とアタルの背筋が粟立った。
 調査班員の握り締める無線に青色のランプがついている。遊撃班内に向けての無線だ。

『大丈夫です』

 いつもどおりの落ち着いたソラの声がした。

『月輝です。俺が一番近いので合流します』
『大丈夫です』
「相良副長の位置から北北東に三分、マップ送ります」
『大丈夫だって』
『ソラ、いけるか?』
『いけますよ』

 司令室が一気に緊張感に包まれた。

「メイン画面に映して」

 帝国隊の耳には、発信機や映像記録も兼ね備えた無線が、小型のピアス状になってつけられている。その精度の高い映像が映し出された。
 それは実際に、ソラが今目の前にしている光景だ。

『はあ、ッ、はあ、はァ……』

 ソラの荒い息遣いまで聞こえてくる。
 雨に紛れてよく見えないが、複数のレギヲンがソラに銃口を向けていた。
 叫びそうになったアタルは、両手で口元を押さえた。

「六対一じゃ分が悪すぎる、相良以外は呼べないのか!?」
「雪代班長は一番区、上杉は二番区中心で交戦中です、呼べません!」
「迎撃班は!?」
「すでに一ノ瀬が向かってますが、十分以上はかかります」
「くそ!」

 ガン!!

「あっ」

 ソラの左手に取り付けた変形式の銃が呻った。

「くそ、あせるな月詠!」
「相良、走れ!」
『とっくに走ってる!』

『……ッ、あと五人』

 ソラが動いた。速すぎて、映像が乱れる。
 もう一度銃声がした。

『あと、三』
「三!? 四だろ?」
「いや、三だ」
「いつのまに二人いっぺんに減らした」

 不思議だった。
 ソラはなぜか一人ずつではなく、だいたい銃口を向ける方向にいるレギヲンをまとめて片付けた。見る見るうちにレギヲンの死体が雨水の上に転がり始める。
 アタルは、そのうちの何体かの様子が違うことに気がついた。暗くてはっきりと見えないが、必要以上に真っ赤に染まっている。だらんと地面に転がるレギヲンの死体。その様子が、どこか、アタルの内側をひどく揺さぶる。
 なんだ、なんで、
 なんでこんな変な感じがする?

『はぁッ、はぁ、は……っ後、』

 ぐらぐらと視界が揺れるモニターに釘付けになって、三番区担当の班員たちは水を打ったように静まり返った。
 どう考えても、一人で六人を相手にしているソラの強さは、異様だ。

『最後の一人』

 ガン
 聞こえたのは、ソラの声ではなく、ようやく到着した相良月輝の低い声だった。

『あ、ずる……』
『三番区殲滅』

 ようやく司令室の緊張が解ける。

「了解、ソラはよくやった、近くのコンテナから帰還。相良は二番区に戻れ」
『『了解』』

 まだ動けないでいるアタルの後ろで調査班員の話し声がした。

「あいつ何歳だっけ?」
「十二だろ」
「あんなスーパールーキーいるんだな」
「…………」

 アタルは、ぽつんと椅子に座ったまま、どこかそれを遠くに聞いていた。

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