夜中に目が覚めると、見慣れない天井に思わず硬直したが、ケージに引き取られたことを思い出した。
じっとりと背中に汗を掻いたせいで、肌にTシャツが張り付いている。
聖は舌打ちをすると、自分の匂いのしないベッドから降りた。
人気のない静かな一号館の廊下は、冷たい月の光に照らされている。春が近づいているとはいえ、まだまだ寒い季節だ。
しかし、自分は裸足も同然なのにまるで平気だった。空調の効いているここでは、暖をとるために身を寄せ合って震えることもないらしい。
突き当たりのエレベーターに左手をかざすと、承認音がした。さらに、押してもいないのにそれは二号館へと向かい始めた。驚くよりも先にドアが開く。
一瞬、聖は躊躇した。
承認されたからと言って、帝国隊の取り仕切る二号館へ入っていいはずがない。
しかし、聖は何かに呼ばれるようにぼんやりと足を踏み出した。
磨きぬかれた窓ガラスから見える景色に、なぜか既視感があったが、そんなことはあり得ないと頭を振る。
廊下の先に小さいラウンジを見つけた聖は、ソファへ腰掛けるとポケットを探り、くしゃくしゃになったタバコを取り出した。たまたま残っていたこれが、最後の一本だ。惜しい気もしたが、仕方がない。ソファに大きく背を預けて天井を仰ぐと、肺に吸い込んだ煙を吐き出す。
奥のエレベーターが突然開いた。
緑色の軍服を着た青年が、返り血で汚れた子供を引っ張って通り過ぎていく。
戦争で保護された子供かもしれない。青年は聖に気がつくと片眉を上げたが、子供はただ黙ってじっと聖を見つめた。黒く澄んだ瞳には怯えや焦燥の色が濃く滲み、血と泥で汚れた頬には涙の跡が残っている。
聖が何か口を開く前に、彼らは奥の扉へ消えてしまった。
――あの達貴とかいう少年もああやって保護されたのだろうか。ふと唐突に、昼間見た横顔を思い出す。
あの柔和そうな白い顔が血や泥で汚れ、涙に歪んだことがあったのだろうか。
指の間に挟んだタバコはじりじりと短くなっていく。気がつく頃には、それはほとんど吸われないまま灰に変わっていた。