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澄んだ夜空を遮るものはない。
星がいくつも瞬いている中で、一際大きく輝く月がぽかりと浮かんでいる。その真横には、深い藍に琥珀の鼈甲を溶かしたような星が佇んでいた。
不思議な運命。あの星がなければ僕らは生まれなかったのかもしれない。それを暗示するほど、あれはお互いの瞳の色に似ている。
ベッドの上で冷えた指先を擦り合わせていると、背後から抱きしめられた。
「一徹」
避難生活が解除されて、地上へ戻ったタイミングで聖夜と一徹は同居を始めた。
もちろん、芽太と奏一も一緒だ。二人とも前のように笑わなくなってしまったが「あんなこと」があった後だ、仕方がない。
「こら、体冷やすぞ」
「今更だ、僕の体はずっと冷たい」
「知らないのか? こうしていれば、ちゃんと体温が上がるんだ」
夜露を思わせる聖夜の黒髪を優しく撫でると、一徹は唇の淵で薄い耳朶をなぞった。柔らかな産毛が擦れて、敏感な皮膚は赤く染まる。
「あっ、くすぐったい」
「これ、好きだろ」
「……、ん」
何度求めあっても飽きない体を、懲りずに絡ませながら再びベッドへ倒れる。
僕らは秘密を共有した。
誰にも言えない罪を。
あの夜の紗綾の件は、例のごとく雑に扱われ単なる事故死として処理された。一徹と奏一以外に家族のいなかった彼女は、誰に疑われることもなく、病的に麻痺した日々へ葬り去られた。
間違っているだろうか。
けれど、僕はこの歪んだ日常を愛している。
尊いまでに狂おしく、永遠を感じるほど深く。
「……あっ、一徹……好き」
「俺もだ、聖夜」
お互いの唇を愛撫するように合わせ、握った掌に力をこめる。
二度も失った家族を、もう絶対に離すことはしない。お互いに、だ。
父さん、母さん――誰にも要らないと言われた僕にも、こんなに愛してくれる人を見つけることが出来たよ。
ねえ、立派でしょう?
片づけた鏡台の代わりに置いたデスクの上には、真新しい家族写真。
そこに映る僕は、笑っている。
2337.01.26 └ 告白 / まりあ