あのうっかりな告白から早いものでもう1ヶ月がたった。
しばらくはぎくしゃくしていた八左ヱ門だったけど、顔中に小さな赤くつねられたような痕を作って来た日から告白する前のように接してくるようになった。
たぶん勘ちゃんが何かしたんだろう。
勘ちゃんに尋ねてみたらべっつにー?なんて笑いながら洗濯ばさみをカチカチやってみせたからあれで顔を挟みまくったのかもしれない。
追求はしなかったけど勘ちゃんの優しさに心の中でお礼を言って笑った。
勘ちゃんも笑ってくれたから私は泣かずに済んで、いつも通りにする事が出来たんだと思う。

「うう、ぬくい…」
「あったまる…」

勘ちゃんの気遣いのお陰で普通に接する事が出来るようになった私たちは、今現在スタバでぬくぬくしながらコーヒーをすすっていた。
外はすっかり冬めいて吐く息は白く、雪でも降り出しそうな寒さだ。
そんな寒さからなんとか逃れようと私たちがスタバに駆け込むのは当然の選択だろう。
前までは私の家に駆け込んでたんだけど…流石にそれはまだ、無理だし。

完全に以前に戻るのはやっぱり難しい。
そう結論付けながらだいぶあったまった体をさすりつつ、同じように体をさする八左ヱ門に話しかけた。

「…ねえ八左ヱ門や」
「何だい、名前」
「今年のクリスマスはどうしますかね?」

クリスマスの予定なんて聞いてるけど、もちろんデートのお約束なんかじゃない。
クリスマスは毎年恒例の独り者合宿をやるのだ。
なんて、私は去年初参加だったけどさ。
それに独り者じゃない時だって勘ちゃんは参加してたらしいし。
勘ちゃん、何だかんだで友達と遊んでる方が楽しい!みたいな人だからなあ。
きっと彼女とはそこらへんが原因で別れたんだろう。
予想だけどさ。

まあとにかく今年も全員独り者な訳だし、気合いをいれて準備せねば!

「八左ヱ門は鍋パーリィとケンタパーリィどちらがご希望?」
「今年の幹事は我々ですか。…うーん、兵助が豆腐食いたいだろうから鍋?」
「いやあの人はケンタでも豆腐食べるよ。間違いない」

自信を持って八左ヱ門にそう答えればそうだな、と深く頷かれた。
あの豆腐狂は食べ合わせなど意識しない。
ただ出された食事と豆腐を堪能するのみなのだ。

「一昨年は兵助が湯豆腐にしやがったんだよなあ…クリスマスの夜に男五人で湯豆腐をつつく侘びしさ」
「あはは!何それめちゃくちゃ面白い!」
「しかも大真面目な顔で鍋を見ながらホワイトクリスマスだなとか言うんだぜ」
「へ、兵助が!?ヤバい、お腹痛い!」
「黙り込む俺達にその大真面目な顔のまま冗談だ、笑えとか言うんだよ」
「ひい死ぬ!兵助面白すぎ!」

お腹を押さえてげらげら笑えば八左ヱ門は兵助の鉄板ネタだよなと笑う。
意外過ぎる兵助の一面をあれこれ議論しつつ、ついでのようにクリスマスの打ち合わせをだらだら済ませて、また明日と解散。

これも前ならそのまま映画とか見て結局こたつで寝ちゃって…みたいなパターンだったのになあ。
まあ流石に八左ヱ門でも自分を好きだっていう女の家にほいほい上がり込む気はないらしい。
私としてはなんだか色々と複雑なんだけど…うん、まあいや。
ごちゃごちゃ考えるのは得意じゃないし。
前とある程度おんなじになれただけ儲けものと思っておこう。

自分を納得させながらばかみたいに寒い帰り道を早足で歩く。
冷えてきた頬を手袋をつけた手で覆いながらの帰り道はすごく寂しい。
前なら家までの帰り道、いつだって右隣に八左ヱ門の姿があった。
寒くても八左ヱ門とじゃれあいながらの帰り道はすごく楽しくて、寒さなんて吹き飛んでしまったのだ。

「戻れる、よね」

ほんの1ヶ月ぐらい前までを思い出しながらふうと白い息を吐いて呟く。

…うん、きっと戻れる。
戻らなきゃ。

「大丈夫、できる」

言いながらぎゅっと握りしめた手は青白く冷えきっていた。


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