「私ははっちゃんみたいに生存競争に弱そうな男とは絶対に結婚しない」

高校生の頃に付き合ってた五つ年上のお姉様は俺にそう言って笑った。
一年後その人は結婚して、相手はなるほど、見るからに肉食獣な男で笑ってしまったのを覚えている。

彼女が言った通り、俺は友達だろうが恋人だろうがだいたいいつも相手に合わせてしまう事が多くて、自分で決めることは少ない。
それを優柔不断だと言う人もいれば空気に合わせていると言う人もいる。
それを雷蔵に言えばうーんと唸ったあと、こんな答えが返ってきた。

「結局さ、八左ヱ門はやさしいんだよね」

やさしい、と俺は頭の中で繰り返す。
俺はやさしいから相手に合わせて生きてるのか、と。
でもなんだかそれは違う気がして俺はうーんと唸ってうなだれたのだった。
それにやさしいってのは雷蔵みたいな奴のことを言うんだと思う。
雷蔵は言わなきゃいけないことははっきり言う。
それは厳しいようだけど、結局は相手のことを本当に思っているからこその言葉だ。
対する俺は言わなきゃと分かっていてもなかなか言えずにタイミングを逃して、結局心の中だけで留めてしまうことが多い。
それって、やっぱり優柔不断なのかもしれない。

ふう、とため息をついて空を見上げる。
空気が冬のものになっているせいか星がやけにきらきら光って見えて、センチメンタルな気分になってしまう。

「はあ…どうしようかな…」

そんなふうに呟くけどその声に答えてくれる人はいない。
俺の声は暗い空に吸い込まれていって、白い息と一緒に溶けてしまう。

…いつもなら。
いつもなら、こんな風に落ち込んだ時はあいつのところへ行って、愚痴をこぼしながら飯を食って映画でも見て次の日にはあっさり持ち直してるのに。
今だけはそれが出来ない。

だってこんなに悩んでる原因はあいつだ。
名字名前、俺の親友。
つるんでる奴らの中で唯一の女で、だけど誰よりも信頼しきってた。
そんな名前が、まさか、まさか、

「…なんっで、いきなり告白とか、」

しかも、俺に。
いや、あれはついうっかり、って感じだったからたぶん言うつもりはなかったんだろう。
俺よりむしろあいつの方が動揺してたし。
あいつは昔からああいう、とんでもないポカをやらかす。
…いや、ポカ、とか言ったらあれだけど。

「…マジで、どーしよ」

はあ、とまたため息をついて、視線を地面に落とす。

…とりあえず、そうだな、誰かに相談しよう。
まあ誰かって、こういう時の相談相手なんか雷蔵に決まってるんだけど。
ケータイをポケットから取り出してパカリと開く。
履歴から雷蔵の名前を見つけて通話ボタンを押せば聞こえてくるコール音。
それを聞きながらまずなんて話そうか考える。
どこから言うべきなのか上手くまとまらないけど、雷蔵ならきっと根気強く聞いてくれるだろう。
そんなことを考えていたらプツッという音のあとに雷蔵のもしもし?という声が聞こえてきた。

「雷蔵、あのさ、」

俺ってやっぱり、やさしくなんかないよ。

するりと俺の口から出てきたのはそんな言葉だった。


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