青空と猫


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03.一緒にランチタイム(前)



一方、その頃、職員室ではーーー。






「必死に耐えてたぜ、お前の妹!」


「…だからどうした。当然の事だろ。」


トサカ髪のプレゼントマイク、本名山田ひざしがビシッと人差し指で、もぞもぞと寝袋を取り出す相澤を指差した。
己の妹の話を出されても動じる様子はなく相変わらず冷めた態度で返答する。一見2人は嫌悪な関係に見えるかもしれないが、同期であり腐れ縁だ。
昔からの付き合い故に、学生時代の姿も知っているわけで。時折その件で相澤が怒る時がある。


「ンな冷てえ事言うなよ!お前だって居眠りしまくってたじゃねーか!」


「俺の話は関係ねえ。それに寝てたのは休憩時間だけだ。」


「こいつはシヴィー…」


何処か残念そうなマイクの方へ振り向きもせず、職員室から出て行こうとするーーと、その時"こんこん"と扉をノックする音が聞こえた。数秒後がちゃり、と扉が開かれ、ひょこっと顔出す女子生徒が1人。


「あの、相澤先生はーーー、」


「お、噂をすれば何とやら!!」


「お前は黙ってろ。……どうした。」


呼ぶ必要もなく女子生徒の探し人は、彼女を見下ろしていた。少々びくっと驚く様子を見せたがジッと気怠げな表情の相澤ーーー自分自身の担任であり兄を見上げる。その兄は同僚の飛ばしてきた野次に若干苛立ったようで一喝してから、要件を尋ねた。


「一緒に昼飯食べよう!」


「俺は寝る。」


「なん、だと…昼くらいちゃんと食べなきゃダメだよ!ね、行こう!寝袋先生!」


予想以上に即答されつい動揺し、おねがいー!と高校生にもなって駄々をこねる生徒の妹。困ったようにぐるぐるを頭上に浮かべる担任。


「誰が寝袋先生だ。…ったく……高校生にもなって駄々こねんな、静かにしろ。」


「……」


彼女は言われた通りきゅっと口を噤むとぐいぐいと黒い服、コスチュームを引っ張り「これで満足か」と少々不満そうな上目遣いで、訴え掛ける。


「……分かった、行けば良いんだろ。」


数秒の間に答えは出たようで。押しに負けた相澤は はぁ、と溜息を零しつつ寝袋を己の教員用机に置いてから「行くぞ。」と藍に告げ、二人で職員室を後にした。















「相澤くん、妹にやっぱり弱いわよね…本人は無意識っぽいけど…」


「基本、妹想いですよね。」


先程口を開かなかった数人の教師達がこそこそ、と同僚の珍しい姿を話題に出す。入学時からそういう"教師"でもなく"ヒーロー"でもない、"兄"という一面を時折見かけている教師陣の思考は同じだったようだ。


「昔っから妹ちゃんにはああだぜ、イレイザーは!」


「やっぱり、昔からなの?」


黙ってろ、と制され口を閉じていたマイクは本人が出て行ったことで、反省の様子もなく腐れ縁の同期の秘密を暴いた。


「意外だなあ、相澤くん…」


死角になっている机の位置から痩せ細った骸骨のような、金髪頭の教師ーーー普段、生徒達の前ねは筋骨隆々なオールマイトもこそり、と顔を出し、何処かほのぼのとした雰囲気を纏いながら呟いた。


その後も職員室が少しの間相澤先生と妹の仲の良さについて盛り上がっていたのは秘密。























逃げないようにと前を歩く猫背な兄の捕縛布を引っ張りながらピッタリと着いて行く妹、その光景はまさに親鴨と小鴨である。


「引っ張んな。」


と捕縛布を引っ張る手を無造作に払い除ける兄。すると妹はめげずに「これならいい?」と今度は服を引っ張っていた。変わらず引っ張られる側は眉間に皺を寄せ、言い聞かせるように呟いた。


「んな事しなくたって逃げねえよ。」


「…本当?」


「俺が嘘を付いてるように見えるか。」


「よく嘘つくでしょ、合理的虚偽!」


「それとこれとは別だ。」


仲睦まじそうなテンポの良い会話のキャッチボールを繰り返していると[メシ処]と表記された看板が壁に飾ってある場所へ到着した。どうやら目的地に着いたようだ。ここは全学年生徒達共通の食堂。昼休みはここに人が集中し、沢山の生徒達で埋まる。今日も例外ではなく席はほぼ埋まっているが、ちらほらと空いている席があった。
席を取りたい所だが、まずは先に頂く物を決めなければならず、入口のすぐ横にある食券販売機に近付いた。

すると藍はうーん、と顎に手を当て悩んでいた。然し相澤はもう決まっている様子で。


「今日はどれにしようかな…お兄ちゃんは?」


「"お兄ちゃん"じゃない、"先生"だろ。…俺は和食で良い。」


「和食かぁ……じゃあ、私はオムライスにしようかな。」


訂正を要求されても華麗にスルー。無事頂く物も決まり、ご機嫌そうな藍。スルーされた相澤は慣れているのか然程気にしない様子で、さり気なく後ろから金銭を渡す。この金で買えという事なのだろう、流石は大人の男というべきか。気遣いが出来る。藍自身も内心感心していた。

お金を硬貨入り口に入れ[オムライス][和食定食]と表示されているボタンをポチッと押すと食券が2枚続けて出てくる。よくある仕組みだ。

その食券を、受け取るおばさんへ「お願いします!」と元気良く渡す。相澤も「どうも」と会釈をする。すると彼女はにこやかに「あら、今日は二人一緒なのね。少しサービスしてくれるようお願いしておくわ。」と言い残しコックの元へ向かって行った。



「サービスって何かな!」


「知らん。」


サービスという言葉に目を輝かせる、単純な女子生徒。逆に嬉しくもなくただ気遣わなくて良いのに、と思っている教師であった。

ーーーキリトリーーー

食堂がよくわからなかったので勝手に捏造しました。