青空と猫


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01.SHR



己の身長の何倍もある大きなセキュリティ付きの門。真っ直ぐ続く廊下に右にはガラス張りの窓。此処から覗くと私達A組が登校初日に体力テストの場として使用した、だだっ広いグラウンドが見下ろすことが出来る。

・・・いつ見ても大きいなぁ。



ーーーキーンコーーンカーンコーン。



そんな事を考えながらぼーっとグラウンドを眺めていると誰もが聞き慣れているであろうチャイム音が鳴り響く。それと同時にハッと我に返り、ばたばたとバッグを揺らしながら慌しく廊下を駆けていく。目的地に着くとばんっ、と勢い良くバリアフリー式のドアを開けた。


「…セーフ!」


間に合った事に安堵を覚え、思わず声を上げた。すると続々に見慣れた私のクラスメイトの姿が現れる。


「藍ちゃん!おはよう!」


1人は前髪の両端が長い茶髪のショートボブが特徴的な天然系の女子、麗日お茶子。個性は無重力≪ゼログラビティ≫。触れたものの引力を無効化する事が出来る。但し、許容値が存在しキャパオーバーすると激しく酔い嘔吐するよ。


「あっ、藍さん…!お、おはよう!」


もう1人はもさもさな緑髪とそばかすが特徴的な地味めな男子、緑谷出久。個性はシンプルな増強型。個性制御があまり出来ないらしくよく体がボロボロになっており、その度にリカバリーガールという保健室の先生にお世話になっている。


「藍くん!遅かったではないか!最高峰の生徒という意識を持って、もっと速めに登校するべきではないか?」


此方を見つけた途端、向かって歩いてきた男子。テキパキと両手を動かしつつ説教じみた事をつらつらと述べる眼鏡…ではなく彼は委員長、飯田天哉。個性はエンジン。足が速くなり、50m走を3秒で走る事が可能。ふくらはぎにエンジンのような器官が備わっており、この器官が爆速を生み出すようだ。


「落ち着いて、飯田ちゃん。間に合ってるんだから良いじゃない。」


そんな止まらない真面目の塊をやんわりと止め蛙のように「ケロ」と鳴く女子。 蛙吹梅雨。個性は蛙。蛙っぽい事なら何でも出来るみたいだ。因みにクラスメイトの大体が梅雨ちゃん呼びしている。


「ムッ、しかしだな…!」

「お堅いぞ委員長!」

「そうだそうだ!間に合ってんだから良いじゃねーか!」


蛙吹さんーーー梅雨ちゃんに宥められ顔を顰める委員長に、便乗するように野次を飛ばす切島や上鳴、その騒々しさを不快に感じたのか「うるせぇ!!」と怒鳴る爆豪。個性は始めの男子から硬化、帯電、爆破。


「爆豪もうるさいじゃん!」

「ンだとゴラ!!!!」

「もう、皆さん朝から騒がしいですわよ…」

「今日の僕もイケてない?」

「ははは…」


すかさず突っ込む芦戸と溜息吐きながら呟く副委員長の八百万。無関係な話題を突っ込んでくる青山に苦笑する強靭な尾の持ち主、尾白。個性は酸、創造、レーザー、尻尾。

そんなこんなでガヤガヤとクラスが一層騒がしくなって行ったが嫌いじゃない、寧ろ好ましい、この騒々しさ。自然とにっと笑顔を見せて「おはよ!」と大声で返事をした。

然し、先程と違い場は突然静寂に包まれた。そしてそそくさと各々席に戻って行くクラスメイト。

何だろう、と疑問符を頭上に浮かべた直後、とんっと軽く背中に俎板のような物が当たった。そして頭上から苛立ちの混ざった、地を這うような低い声が降ってきた。


「…おい、いつまで突っ立ってんだ。」


パッと上を向くと小汚いと言われる男の顔がそこにはあった。気怠そうに細められた三白眼は常に充血気味で、手入れのされていない無造作に伸びた黒髪はボサッとしていて所々跳ねている。右頬には敵に付けられた切り傷の痕、無精髭、口元はこの男の武器、捕縛布で隠れていた。
正体に気付くと同時に「げっ」と漏れる声。


「げっ、じゃねぇ。」


そのまま片腕に持っていたのであろう黒い出席簿の表面で、バシッと顔面を軽く叩かれる。


「いっ…!!」


地味な痛みに声を上げては反射的に俯き両手で顔を押さえた。そしてよろよろと一番前の席を引き、力無く着席する。

先程攻撃してきた全身真っ黒な小汚い男は何事も無かったかのように教壇へ上がり、クラスメイトに向かって挨拶の言葉を投げ掛けた。


「はい、改めてお早う。号令。」


『起立、礼!…おはようございます!!』


すると皆声を揃え元気良く朝の挨拶を口にした。

どうやらクラスメイト達は私の背後にいる存在に気付いていたようで。何で後ろにいるって教えてくれなかったんだ!と今更仕方がない愚痴を脳内でこぼし、机に突っ伏した。


「相澤先生、妹とか関係なく厳しいよな…」

「公私混同するような性格じゃねぇしな…」


ひそひそと斜め後ろから聞こえる言葉。恐らく上鳴と切島だと思われる。


「おい、私語は慎め。」

『ウッス!すみません!!』


ひそひそとした声でも聞き逃さず直ぐ様注意する担任、相澤先生。

そう、この担任の名前は相澤消太。相手を見ただけで"対象の個性を消すことができる個性"の持ち主で、相澤藍ーーー私の実の兄であり、抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッドだ。


「ーーー以上。ああ、後、当たり前の事だが、授業は真面目に受けろよ。」


キーンコーン・・・

突っ伏しているとSHR終了時間のチャイムが鳴り、あっという間に終わってしまった。最後の忠告は皆に向けての言葉のはずが、何故かビシビシと視線を感じる。

気のせいかな。





「…お前、今日少しでも居眠りしたら反省文書かせるからな、分かったか。」


「はい!分かりました先生!!」


怒気の含んだ声が又もや降ってきてから確実に自分の事だと気付く。顔を速攻上げ、ビシッと背を正した。人間、怖いものには逆らえないのだ。


そんな分かり易過ぎる反応を示す妹、藍を見て担任の兄は「言われる前にやれ。」と溜息を零しA組の教室を後にした。








ーーーここはプロに必須の資格取得を目的とする養成校。全国同科中最も人気で最も難しく、その倍率は例年300を超える。その名も、雄英高校ヒーロー科。

これは私がプロヒーローになるまでのどうでもいい日常を描いた物語である。