この気持ちに気づかないで


前回のヒロイン視点ver.





「ねぇ…キスしていい?」

「……は!?」



突然の音也の言葉に思考回路が停止する。
今なんて言った?
キスって単語が聞こえたような気がするけど。
きす、鱚、キス…!?

いや、私が馬鹿な訳じゃない断じてない。

だってここは校則で恋愛禁止されている早乙女学園の教室。
いくら放課後で周りに人がいないとは言え場所と言うものを考えて欲しい。
万が一聞かれてたら退学だぞ退学。


そして次が最も重要な事なのだが別に私と音也は付き合っていない。
こうして放課後に音也の課題に付き合いはするもののそれだけの仲である。



「あのー音也さん、冗談はともかく早く課題を…」

「冗談じゃないよ」


そう言った音也の顔は驚く程真剣で、
さすがに空気を読んだ私も真面目に音也に向き合った。


「音也、別に私達付き合ってないよね」

「――けど俺はなまえが好きだし、ずっと見てた」
確かにこうやって仲良くなる前、どこからか視線を感じることは多々あった。
けどまさかその視線の正体が音也で今までそんな風に思ってたとは知らなかった。
いや、本当は心の奥底では気づいていたかもしれない。
ただ気づかないふりをしてただけで―――



「この学園が恋愛禁止なの位知ってるし理解してるつもり。だからなまえに付き合ってなんて言えないし言わない。ただ1回でいい。キスしたい」


真っ直ぐ私の瞳を見つめる音也があまりにも真剣でそれ以上私は何も言えなくなった。



本当は私だって音也が好きだ。
じゃなければこんな放課後をわざわざ潰してまで付き合って残ったりしていない。
私はそこまでお人好しじゃない事位理解している。



ただ、だからこそ音也に私の気持ちが言えない。


今私の気持ちを伝えてたら今度は互いに苦しくなるだけ。
ただでさえ感情が表にでやすい音也。
そんな音也だからこそ好きになったんだけどそれとこれとは話が別だ。

ここは何といっても早乙女学園。
恋愛してるのがバレてしまい退学になってしまっては
何の為にこの学園に入学しここまでやってきたのか。
全て無駄になってしまう。


それだけは何としても避けたい。
私のせいで音也の夢が潰れるのだけは耐えられない。


だからここで私にできることは――


「いいよ」


私の今の精一杯の気持ちを込めて呟く。

私の気持ちは誰にも言わない。
ずっと胸の中に溜めておく。


ただ1回のキスだけなら、
付き合う訳じゃない。
それだけなら。
例えわがままでも屁理屈でもいい。
今だけはこの気持ちに嘘はつけなかった。


そして音也の顔が近づいてきてそっと唇に触れる。
ただ触れるだけのキスだったがそれだけで幸せだった。
短いような長いような時間が過ぎ、音也の顔が離れていった。


「……音也…」


キスを終え音也の顔を見ると切なそうでそれでいて辛そうな顔をしていた。

自分からしたくせにそんな顔をするなんて。


「ごめんね。ありがとう」


そう絞り出すように言葉にする音也に私がかける言葉なんてあるはずなくて。

こんなことなら両思いだなんて知らなければよかったなんて。
知ってしまったら幸せを求めてしまう。
だけどそれは許さないことだから。
こんな思いをするのは私だけで十分だから。
だからどうか私の思いにだけは―――





この気持ちに気づかないで
(だけど気づいてほしいなんて)






ほら世界は矛盾している







音也くんが可哀想だったのでヒロイン視点で補足。



121005





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