あかりがまぶしい
01
 たまに見る、夢がある。
 深い眠りに落ちたと思ったら、何か誰かが俺を呼ぶのだ。上の方からか細く小さな声で。もしくは、俺が誰かを呼んでいるような、そんな気もする。
 遠いところから、拍手、拍手、拍手。けれども、手は一本も見えてこない。映像が無い。暗闇という概念さえ、無かった。
 シン、と辺りは静まり返り、俺は少し緊張に体が締め付けられるのを感じる。
 深い、息遣いが聴こえる。安らかではなく、荒くもない。これは、腹式呼吸。
 金具のこすれる音がする。カチャリ、カチャリ、カコカコカコ。それが心地よく感ぜられるのは、木の温もりのせいだろうか。
 空気が震え、全員の鼓動が一足飛びに跳ね上がった瞬間。




 目覚めの電子音が鳴った。朝陽がカーテンからこぼれて、チラチラと顔にかかる。
 二LDKの部屋は、一人暮らしの大学生にはやや広すぎる。ついでに、不要な防音機能。インターホンはモニター付きで、二重窓。だだっ広いロフト収納。
 無意味に響き渡るこのやかましい音を止める。ため息が自然とこぼれた。伸びを一つ。
 ふらりふらりと黒い箱に近づいて、簡単な操作を行う。箱から流れてきたのは、いつものあの曲。気分でディスクを変えてはいるが、どれもこの曲が先頭に来るように編集してある。
『Over The Rainbow』――邦題は、『虹の彼方に』。
 憂いを帯びた長調には優しさばかりが溢れ、いっさいの束縛も無い。そう、あの虹の向こうには何があるのだろうという、明るく前向きな夢。誰かはこの曲を「自由の象徴だ」と評した。森の中の柔らかな光の中で語り合う、自然のようだと。
 そんな素晴らしい曲を、例えば俺ならこう評したい。
 この曲は、「罪からの解放」のようだ、と。
 薄い光と薄い影を持ち合わせた、曇りガラスのような柔らかさ。この上ない柔らかさに包まれるような曲。
 全てのものを許してしまうこと曲の愛の深さに、今日も朝から魅了されっぱなしだ。

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