あかりがまぶしい
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「僕は好きだけどなあ。さっきも見てたけど、蝶々が花を探して飛んでるみたいで、綺麗だったよ」
 少女は呆けたような顔をしていたのだろう。少年がルリの顔に向き直ると、照れたように視線を外して再び話し続けた。
「君にこう言うのもどうかと思うけど、僕はスケートが好きじゃない。でも親がもっと外に出て体を動かせってうるさくてさ。『冬になって蝶も飛んでないんだし、スケートリンクにでも行け』って言われて渋々来てるんだよ」
 ほう、と少年はため息をついた。ルリの目にもだんだん、スケートリンクの中で舞う少年少女たちが色とりどりの蝶に見えて来たような気がした。
「君はすごくスケートが好きなんだね。僕みたいな初心者でも見てわかるんだから。失敗はしたかもしれないけれど、君がスケートをどれだけ好きかは、その友達にきっと伝わってるよ。いや、友達だけじゃなくて、見に来てくれた人みんなに伝わってるんじゃないかな」
「うん、すべってるだけで楽しくて、なんだかうれしい」
「僕もこの、蝶が好きだっていう気持ちを、たくさんの人に伝えたいよ」
 あの白い衣装の小さい子は、モンシロチョウ。オレンジの派手な子は、アカタテハかな。少年は本当に楽しそうに笑う。両親に「ルリは本当にスケートが好きなのねえ」と言われたことを思い出していた。私もこんな表情をしていたというのだろうか。
「僕は、スケートに行くより蝶のことを勉強してる方が好きだなあ。『何の役に立つの?』って僕も言われたことがあるんだ。でも、僕も君と同じことを思ったから」
 少年が右手の人差し指をかぎ状に曲げて、目の前に差し出す仕草をした。その細い指先に、色の見えない美しい蝶が止まっているような幻想を見た。
「空を自由に舞う蝶々を、見れるだけで嬉しくなるんだ」
「わたしも、ちょうちょ、すき」
「ありがとう。僕もスケートのこともう少し勉強するよ」
「なんで? お兄さんが好きなのは、ちょうちょなのに」
 ルリはもっと少年から蝶の話を聞きたいと心の底から切望していた。蝶が好きなこの少年は、きっとどこまでも蝶の話をしてくれるだろうと予感させた。
 そして自分は、フィギュアのことをどれだけ話せるだろうかとも。
「……君は蝶の話を一生懸命聞いてくれただろ。そしたら今度は、僕が君の話を聞いてあげたいじゃない」

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