あかりがまぶしい
01
 恋人も、友情も、家族だって、それを繋ぎ止めるのはきっと”愛"なんだと思う。でもこの言葉はあまりに陳腐で使い古されて、なにより短すぎて僕はあまり好きじゃない。彼女もきっと、好きか嫌いかで答えるとしたら嫌いと答えるのだろう。
 だから彼女は”愛”を越える何かを求めたがったんじゃないだろうか。
 “愛"は彼女にとって、あまりに重要なところで不完全だったのだろうから。



覚えてないとは言わせない
あの時だけは二人同じ夢を
太陽を迎えに星が眠り
笑い声が夜の音符を紡いだ

離ればなれなんて思わぬサダメ
寂しいよねお互いがお互いを
必要としなくなったなんて
でも僕はそんなに強くない

君といた時間が遠ざかっていく
君専用のマグカップ今も変わらず
窓辺の光浴びている
飛行機雲が流れ星に見えた夕暮れ

君といつまでもいられる道は
あったのだろうか? 振り返っても
そこにあるのは一本の道だけ
君と過ごし君と離れた道

音のない部屋で一人きり
隣の人の咳が聞こえる
夜の静けさを歌に変える力
僕はまだそんなこと出来ない

君といた時間は雪とともに
音無き春の代わりに消えてしまった
「時も音も形のないもの」と言い聞かせ
なんでもない振りはお手の物

君の代わりに朝日が僕を起こす
スイッチ一つ再生不可能な
君との時間が流れ出す

君といた時間が遠ざかっていく
君専用のクッション相も変わらず
柔らかいままそこにある
流れ星ない夜空に願いだけ浮かべる

流れ星ない夜空に願いだけ浮かべる




「面白いね、歌詞だけ見ればすごく寂しい曲なのに。曲調でこんなに印象が変わるんだ」
「そうそう。言葉の世界観とかイメージに合わせる例ももちろん沢山あるけどね。いろんな曲を聴けば、いつもそうとは限らないってわかるよ」
 感心したように曲に耳を傾ける彼女。頭にかぶるピンクのラインが入った黒いヘッドホンは、僕のブルーと色違い。
 ……彼女が勝手に、買ったのだ。
「イメージをリクエストしたら、それに合わせた曲も作ってくれるの?」
 日中は指先から新しい季節を感じるようになってきた。住み慣れてきた7帖の部屋、僕は作業中の手を休めて彼女の問いかけに答える。
「まあ、イメージしやすければ努力はするけど。誰にでも何でもって訳にはいかないよ」
 元々遠慮のない立ち居振る舞いだったけれど、今日も彼女は我が物顔で色気のない座布団の上に座っている。以前飲み物の好みが違うことを知ってから、部屋には紅茶なりココアなりを買い揃えた。
 つまり、彼女がこの部屋にいやすくなるようにしているのは、他の誰でもない僕だ。
「じゃあ、すっごく切ない歌を爽やかに歌いたい」
 ニッと笑いかけられる、この笑顔にだけは逆らえないのだ。
「切ない、ねえ。もう少し具体的に言える?」
 リクエストをもらえるのは正直助かる。自分の中だけで生まれるものには限界があるし、歌っている本人からもらえるアイディアは特に、とても貴重だと思う。
 彼女は至極真面目な顔で続けた。
「物理的に離れてても、心さえ離れていたとしても、繋がれるものが欲しいって思う時があるの。そしてそれはきっと、愛ではないと思うの」
 愛、と僕は唇だけで反芻する。
「愛は愛で素敵だと思う。でも所詮……例えばキスは、触れている間だけがキスでしょ?
 愛を超えるものがきっとあるって、心のどこかで信じてやまない私がいるの」
 彼女の視線がコップに注がれる。色恋の話なんてちっともしたことない彼女が”愛”とか”キス"とか語りだしたことよりも、その視線が気になった。飲み物がどんどんと冷めていくような錯覚さえ覚える。
「難しいな……でも、うん。わかった、考えてみる」
 言葉もなく、しかし大きく頷いた彼女は、満足というには足りないけれど安心したように微笑んだ。

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