あかりがまぶしい
02
 青い空、白い雲。眩しい日の光が俺の両肩を照らす。
 こういう天気は、クーラーの効いた部屋から眺めていたい。それなのに今は屋外も屋外、水泳授業の時間で長距離を計測中。
 女子は隣で別メニューをこなしている。なんでも、チーム対抗リレーだそうだ。アンカーはあの四ノ倉さん。へえ、水泳得意なのか。いや、クロールが得意なんだ、というべきか?
 あっという間に入水。綺麗だなあ……。

「次、入って構えろ」
(おおっと)

 俺もザブンと冷水の中へ。

「用意」

 体育教師が笛をくわえた。ゴーグルをグイと下げ、ピッと勢いよく鳴るのを待つ。

「柚希!」

 叫び声が聞こえるや否や、水しぶきが盛大に上がる。な、何があった? 飛び込んでいったのは、紛れもなく男だ。でも、着衣しているわけじゃないから、人物まではちょっと……。

「そこのお前、こっちまで運べ」
「は、はい」

 四ノ倉さんを両手で抱えて、男子生徒はプールサイドへ向かう。ようやっと、顔が判別できるようになった。

(あいつは……)

 知っている、知っているんだけど……あっ。

「どうして……!」

 そりゃあ、当然の疑問さ!
 『問題児』紺崎望道が、どうして四ノ倉さんを?




 昼休み、当人二人のいないうちに、クラスの女子に聞き込み調査だ。そういえば、最近怠り気味だったかもしれない……迂闊だった。話題を先ほどの水泳授業に持っていくのは容易かった。

「そういえば最近、シノっち明るくなってたよね」
「やっぱり、恋愛って大きいわ」
「うんうん、わかる。誰かに守ってもらえる、っていう実感がさ。あるのとないのじゃ大違い」
「紺崎くんとか、いかにも忠実そうだもんね」
「ああいう人、あたしにもいたらいいのに……」

 キャーとひとしきり騒いでから、その中の一人が何ともなしに呟いた。

「そういえば紺崎くん、物理の先生に褒められてたよ。この前のテスト良かったんだって」
「へえー。まあ、そうよね。シノっちのカレシだもん」
「シノっちは少し落としたみたいだよ」
「わあ、かわいそう。勉強できなかったのかな?」
「落としたって言ったって、うちらよりは断然いいんだろうけどさ。……勉強と恋、両立できてないのかな?」

 やっぱりおかしい。以前なら、二人に関してこれほどの情報(噂も含む)は得られなかったはずだ。紺崎は陰気で、四ノ倉さんは超越としていて。そして何より、あの二人は地味だった。
 奥歯をかみしめる。ぎり、と音がした。
 何なんだ、この感じは。
 あの二人に、そしてこの俺に、何が起こっているんだ。
 何が起こっていやがるんだ。




 真相解明のための労は惜しまない。俺はさりげなく気づかれないように合法的に四ノ倉さんへの尾行を続けていた。恋愛感情のもつれにおける尾行は「ストーカー」となって犯罪だけど、俺は違う。いずれ話しかけるつもりだ、という言い訳を盾にする。

「考えてるみたいだね」

 すると突然、トトト、と四ノ倉さんが駆け出して、誰かにそう声をかけていた。その際、肩をたたいて人差し指を差し出すあの技を繰り出す。
 その先にいたのは紺崎で、彼女の指は奴の頬に軽く埋まった。
 うらめしや。この調査を罪にしたいのか、こら。
 二人はそのまま校舎を出て、校庭を抜ける間際にある竹林に足を進めていった。うーん、さすがの俺も……藪をつついて蛇よりまずいものは出てきても、大変なのは俺の地位と立場だしなあ。
 それに、さ。
 なんか、二人でいるところはもう、いいや。気が進まないし、見たくない。
 「情報屋」が聞いてあきれるセリフだけどね。




 翌々日、携帯のストラップを指でもてあそぶ紺崎に声をかけた。

「紺崎っていいよなあ」

 多分こいつは、喧嘩を売られたら、買うタイプだ。

「……何だよ」

 ほら、乗ってきた。

「愛しの彼女と毎日デート。バンブー林でまったく、何やってんだよ」

 二人で歩いているのを見たのがそもそも一昨日が初めてだったけど、あの様子じゃあ、「毎日」が過剰表現ってこともなさそうだ。
 興味なさそうに聞き流していた紺崎も、さすがに最後の俺の台詞には食いついてきた。しめしめ。

「お前まさか、俺のあとつけていたんじゃないだろうな」

 うーん、曖昧な言い回しだったね。手強いなあ。

「まさか。そこはほら、ちゃんとケース・バイ・ケースで行動できる。それとも何、見られちゃまずい?」

 言うが早いか、胸に一発パンチを食らった。照れてんのか、つっこんでんのか、分かんないなあ。
 言い訳をさせてもらえるなら、その時の俺は少々苛立っていた。俺にしては、いやらしい考えが浮かんだ。俺の中の何かが、俺にこう、囁きかけてきたんだ。

(チョット、カキマワシテヤレ)

 俺は、不敵な笑みを意識した。

「……面白い話がある」

 だめだ、言ったら、契約違反だ。

(キモニメイジロ、アノヒトハ……)

 相反する俺の中の声が戦って俺の鼓動が高まる。
 しかし、それでもまだ、奴の表情はピクリとも動かない。

「あ、信じてない顔」

 ようやく、といった感じで言葉を見つける。

「信じられるか」

 俺の心が、キレた。

「お前、本当に知らなくていいの?」

 ドクン。ああ、俺ってやつは。

(アノヒトノ、トナリハナ……)

 せめて、俺は奴だけに忠告してやろう。指で合図して耳を借り、声をひそめる。

「四ノ倉さんは、モテる。お前の周りは、敵が多いぞ」

(オマエデハ、ツトマラン)

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