電車を降りた駅で買っておいた、いわゆるご当地駅弁なるもの四人分を持たされた。遅刻をしたペナルティのつもりらしい。確かにあの状況からすれば一番罪深いのは俺だが……涼しげな顔で、わざわざ俺の一歩手前を歩く身軽な駒浦に、ケチの一つもつけたくはなる。
「おい、お前も少しは手伝えよ」
「元はと言えば、紺崎が悪いんだろ。……まあ、いいよ。持ってやるよ」
女子二人分の、つまり並盛りの弁当二つを、駒浦に持たせる。少し荷は軽くなったけど、一度にじんだ汗は少し、不快だ。
「ねえねえ、小径! ちょっとあれ見て!」
「どうしたの」
「あれ、もしかしてお祭りじゃん?行ってみようよ」
公園の展望台でわいわいとはしゃいでいる最中、こう仁岡が言い出したので、俺たち四人は公園を後にし見つけた先の神社にぶらぶらと向かった。神社は広く、そこではわりと大規模な夏祭りらしきものが催されていた。「何を祭っているんだ」と駒浦に聞くと、当然のごとくリサーチ済みだった。聞いておきながら興味はさらさらなかったので流し聞いてしまったが、簡単に言ってしまえばその年の五穀豊穣を祝しているんだそうだ。
仁岡が柚希を先導するように、男二人の先々を行く。
「浴衣ってのは、いいね」
駒浦が何の前触れもなしにそう耳打ちしてきた。道行く人々の中には確かに、浴衣を着た女性も少なくない。
「屋台の提灯の効果のせいもあるだろうがな……まあ、悪くはない」
当然だが、柚希も仁岡も私服だ。二人は俺たちの数メートル前方を仲良く歩いている。こんな話を聞かれると、少し面倒な気がした。まあ、所詮俺たちも普通の男子高校生であるというだけの話であって……これ以上言うのも言い訳がましいか。
仁岡と並んで歩く柚希を見る。柚希の容姿は人並よりも上、平均より少し背が高く俺より十センチ程度低いくらいで、何より華奢だ。
……ん、浴衣もまあ、悪くない。
「へいらっしゃい!」
屋台の店番をしている輩の言葉づかいは、そろいもそろってあまり堅気ではなさそうだった。
「祭りの屋台だって、良いもんと悪いもんがある。うちは、悪くねえよ?」
それだけに、その言葉が俺と駒浦とに向けられた言葉だと気付くのに、一瞬遅れた。屋台の店番をしていたのは、肌の浅黒い中年オヤジだった。
明らかに話しかけられていると分かっていながら無視をするのも気が引けて、仕方なくざっと品に目を通す。値段も様々、品も様々。とりあえず雑貨を扱っている、としか言いようがない。駒浦も、お愛想とばかりに棚を見回しているだけのようだった。
「俺は……」
こういうの興味ないんで、と言いかけてやめた。俺の視線が「それ」を捉えた。
「……これ、いくらです?」
俺の態度の変わりように、え、と駒浦が目を見開いた。それを無視して俺はカバンから財布をあさる。
「いい目してるな……千円に負けてやる」
負け値なのかどうなのか疑わしいが、俺は今ここで「それ」と出会えたことに、誰にでもいいから感謝したいと思った。千円札と引き換えに、安っぽい紙袋で手渡される。
その間に女子二人は先に行ってしまった。何をそんなに話し込んでいるのだろう。