あかりがまぶしい
06 《prince side》
 朝一番に台本が配布され、まずその作成期間の短さに素直に驚いた。それから一読してその完成度の高さにさらに驚いた。[シンデレラ]を演じることが決定したのが一昨日、大まかな配役が決まったのが昨日だ。[執事]とか[シンデレラ父]とか色々配役が増えてはいるが、話の展開は山あり谷あり、劇としても申し分ない。ト書きまで入ってやがる。

(北島……)

 張り切りすぎじゃないか……。

 読み進めて、少し気になることがあった。それは[王子]の、俺のセリフが長いということ。主役だから仕方ないとはいえ、これ、全部覚えるのか?




 昼の弁当を食べながらも俺は台本に目を通す。もう4、5回は読み返している。読み返すほどに話がよく組み立てられているのがよくわかる。童話って、話の単純さの方にウェイトが置いてあって、登場人物の心情とか行動の動機に乏しい印象がある。年をとってから童話を読むと、いわゆる“ツッコミどころ”が多くて嫌になる。その点を北島の台本は丁寧に滑らかに繋いできている。若干くどい部分があるといえば、そうなのだけど。

 ふぅーと長い息をつき、椅子の背にもたれた。視点は遠くに結ばれ、教室全体がぼやける。

『大学なんて、どこ行ったって一緒よ』

 耳の奥にこびりついたように聞こえる。




「はあ?そんなん聞いてねえし」

 母親から、大事な話があると言われて、一緒に夕食をとった。母は早速話を切り出したのだった。

「聞いてなくてもいい時期じゃない。あんたが向こうの大学に進学すればいいだけの話でしょう。お父さんも待ち遠しいって言ってたわよ。そりゃあ、地元の大学の方が進学しやすいけどね、家族はやっぱり近くで一緒に暮らした方がいいわ。今までそうできなかった分、なおさらよ」

 父親は県外に単身赴任していたから、あまり会う機会がなかった。小学生の頃とかは休日を家族全員で過ごす友人たちを羨ましく思うこともあったが、夏休みや正月には帰ってきてくれたし、たまにメールもしてくれる。慣れればそれが普通で、俺は地元で進学することになっても一人で暮らすつもりだった。

「俺はここに残るよ。母さんが行けばいい」
「あんた、父さんの気持ちにもなってよ。父さんはね、小中高校と友達が変わるのはあんたのために良くないって言って単身赴任してたの。大学なんてどこ行ったって一緒よ。家くらい一緒だって……」
「何だよ、今さら!」

 俺は乱暴に箸を置いて食卓を離れた。「考えておいてちょうだい、ね?」と言い残して母親は話を切り上げた。

(またお前と走れるのか、いいなあそれ)

 全部俺が決めることなのか? そんなの辛すぎる。

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