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しかし、優生の心のうちは穏やかなものではなかった。
サトシに対しての警戒心は、初対面の先週以上だ。
仕事以外で新しい人間関係を築くことが久しくなかったこともあり、必要以上に誰かと親密になる怖さがある。
なにより先週末、おそらくはサトシが引き金となって過去の亡霊に翻弄された苦さで、無意識のうちに心を強張らせていた。

それでも平常心を装って注文のために顔を上げると、営業用の顔を造りながらも、瞳だけは心配そうに揺れている志信がいた。
『大丈夫』言葉にする代わりに緩く微笑んで酒の名前を口にする。

カウンターのスツールに座るサトシがわずかに表情を動かしたが、隣に座る優生も他の客も気がついてはいない。
間接照明だけの店内では一層見えづらいが、優生とサトシの二人に注意を払っていた志信だけは、新しい客の横顔に浮かんだ、驚きの表情を見逃さなかった。
数少ない親しい人間にだけ見せる、優生の柔らかい笑みに反応してのことだというのも気がついていた。
しかし、表情の変化は一瞬だけで、優生がサトシに向き直った時にはすっかり消えていた。

「なに?」
「いや。疲れてるみたいだね」
「うん、こんな時間まで残業だったから」
期末を前にいつも以上に忙しく、それに加えて先週末はゆっくりできなかった。
そんなに疲れているつもりもなかったが、顔に出ていたかと無意識に頬に触れる。
「目が充血してる」
「っ」
急に目元に触れられ、大げさにビクリと肩が揺れた。
「っと、ごめん。つい・・・」
サトシが慌てて手を引いたが、触れられることに慣れていない肌に指先の感触が残る。

久しぶりに触れられたせいか、サトシの指先が熱を持っていたのか、頬が熱い。
片方の目元だけに残る違和感を、頬に添えたままの手のひらで拭い去ってしまいたい衝動が優生を襲うが、そんな無礼をするわけにもいかず、代わりにコースターに置かれたばかりのロングカクテルに口をつける。
空腹を感じていた胃が一瞬だけアルコールで熱くなる。


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