グラスのお茶で口を湿らせてから、銀色のスプーンでチャーハンを口に運ぶ。卵とウィンナーと野菜が入った懐かしい味が口に広がる。
「美味しいです」
「当ったり前だろー。もっと食いに来いって」
志信の細い指が優生の硬い髪の毛をクシャリと撫でる。
くすぐったい気持ちになりながらも返事はせずに笑顔を返すのを見て、志信は僅かに表情を歪めた。

週に一回は必ずVespertineに足を運んでいるというのに、志信はもっと顔を見せろとうるさい。
粗暴な言葉遣いの年上の友人は、まるで親兄弟のように優生のことを気にかけてくれていた。
無条件の優しさが嬉しい反面、心配や迷惑をかけてばかりもいられないという気持ちでいるのだが、優生の見せる他人行儀な遠慮が志信の心配を煽っていることは知らない。

食事をする姿を見つめる瞳が心配そうに曇っていて、優生は安心させるように微笑んだ。
「そんな顔しなくても俺は大丈夫ですよ」
「大丈夫だったら、こんな時間に来ねぇだろ」
「でも、大丈夫なんです」
Vespertineに来ると──いや、志信の顔を見ると心の澱が晴れてゆく。
それは、刷り込まれた安心感。

「今日のところは秋穂にもそう言っておいてやるよ」
信じねぇだろうけど、と言って志信は細い肩を竦めた。
小坂秋穂(こさかあきお)はVespertineのオーナーであり、他にもいくつかのキャバクラとバーを経営している青年実業家だ。
志信の恋人でもある彼を優生もよく知っていた。

「ごちそうさまでした」
「ん、お粗末様」
カウンターから手を伸ばした志信がクシャリとまた髪の毛を撫で、空いた食器を片付けた。
もう二十代も後半のいい大人だというのに、志信に髪の毛を撫でられるのは気持ちが良くて思わず目を細めてしまう。
そんな優生の様子を見た志信も表情を和らげる。

「なぁ、ウチ泊まってけば?秋穂も今日は店回るから帰ってくるの遅ぇし」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
平日以外に顔を出すと決まって言われる言葉にやはり決まってやんわりと断りを入れる。
志信の不満気な顔もいつもどおり。
「あんま顔見せねぇと秋穂が寂しがるぞ」
ピンッと志信の指が優生のおでこを弾く。
「・・・後でメールしておくよ」
「ったく、知らねぇぞー」
苦笑いを返してコートを羽織った。

「何かあったら俺かアキにちゃんと連絡寄こせよ!」
「わかってるよ。今日はごちそうさま。また来ます」
まだ何か言いたそうな志信に背を向け、先ほど自分で施錠した鍵を開けて店を出た。


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