「はい!生中二つ!」
まだ笑っている賢司を咎めようと口を開いた優生の前へ、ドシンと大きな音をたててビールジョッキが置かれた。
ジョッキの中のビールはこぼれずにガラスの中で揺れている。
「注文いい?」
「はい」
店員がエプロンのポケットからハンディターミナルを取り出すのを待って、賢司がメニューを指し示して注文をしていく。
先ほどまで開きもしなかったメニューから躊躇なく注文していく賢司がひどく大人びて見え、優生はメニューではなく賢司の顔をまじまじと見つめてしまった。

「とりあえずこれでいい?」
「あ、えっと・・・うん」
顔を上げた賢司としっかり目が合い、見つめていたことを知られてしまったことに照れながらも慌てて頷くと店員は下がっていった。
「じゃ、乾杯」
「あ、うん」
何に乾杯するんだろうと思いつつ、賢司がそうするように優生も重たいビールジョッキを掲げた。
「今日はありがとう。遅くまでつき合わせてごめんね」
優生が掲げたジョッキに自分のそれを軽く合わせた賢司が、優生の目を覗き込みながらそんなことを言う。
馴れ馴れしくて失礼な男かと思いきや、こうやって真摯で意外な一面を見せられると思わずドキンとするのは優生でなくてもそうだろう。
再び顔に熱が集まるのを感じながら、それを隠すようにビールを煽った。

初めて口にするビールを勢いでごくごくと喉に流し込む。よく冷えたビールの発泡と苦味が心地よく、半分ほど飲み干していた。
「戸田くん、いけるねー」
同じくジョッキを半分ほど煽った賢司が嬉しそうに笑う。
大人びて見えていた賢司の邪気のない笑顔はやはり年相応の幼さが混ざる。
歩き方一つとっても都会の人ごみにすんなり紛れてしまえる賢司に、都会的で大人びた印象を感じて気後れしていたが、その笑顔に肩の力が少しだけ抜ける。
賢司の懐こい性格と長けた話術、アルコールの力もあって打ち解けるのはすぐだった。

話が弾んで飲みすぎてしまった会計は、一方的に奢ってもらうには申し訳ない額になっていた。
レジの前で半分払うと財布を取り出した優生に「じゃ、今度は戸田の奢りで飲みに行こう」と言って、さっさと会計を済ませた賢司は「約束があるから」とそのまま繁華街へと消えていった。
優生にとっては大きな金額を負担させたことに負い目を感じながらも、自分とは違う世界に住む賢司にとっては当たり前のことなのかもしれないと無理矢理納得し、優生も足早に駅へと向かった。
自宅に着く頃には賢司の社交辞令などすっかり忘れ、せめて飲み食いした分は返そうと賢司が受講していると言っていた講義のノートを鞄に詰め、アルコールに誘われるまま眠りに落ちた。


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