『…そっか、あそこにいる双子ちゃんがキミの弟くん、妹ちゃんたちなんだね』
キミにそっくりね。なんて笑う彼女は、春樹さんと言うらしい。
端から見ていると、春樹さん一人で話しているように見えるかもしれない。
なぜなら、俺は一言も言葉を発していないからだ。
小金井ほどではないが、俺の思っていることをほぼ的確に当ててくる。
みんながみんなわかってくれるわけではないその言葉を、どうして理解できているのかわからない。
現に高校時代所属していたバスケ部の元チームメンバーにも、意思疏通ができると思えるほどの人は小金井ぐらいしかいない。
なのに、なんで…?
こちらを除きこんだ春樹さんがまた"悟る"。
『今、なんで?って思ったでしょ?』
頷けば、得意気な顔。
問いかけが肯定されると、春樹さんは子供っぽく無邪気に笑う。
そのたびに俺はなんだか落ち着かなくて、その顔から目が離せない。
『私ね、心理学を勉強してるんだ。…言葉にできない想いとか、意見とか少しでも私が拾って、悩みを持っている人にちょっとでも近づけるようなカウンセラーになりたくて!』
だから、今は修行中!
そう言葉を紡いだ春樹さんはきれいに笑う。
あぁ、また心臓が跳ねた。
ふわふわして落ち着かない。
それは身体が…?心が…?
意味もなく胸に手を当ててみて首を傾げる。
「凛にぃ…」
「凛兄のお友達?」
双子たちがちらちらと隣の彼女の様子を伺いながら、駆け寄ってくる。
『そうだよ、キミたちのお兄さんとさっきお友達になったの。私は春樹、よろしくね!』
はい、握手ー!と春樹さんが差し出す手を、ちょっとしゃちほこばったようすで握るのは双子の兄の方。
一方、その兄の背中に隠れながら春樹さんを見ているのは、人見知りが激しい妹。
兄弟たちのなかでもよく似ている二人の違いは、髪の長さくらいだ。
『うん!近くで見てもそっくりだね。うちの兄弟とは大違い!』
それは双子だから…と苦笑して。
「お姉ちゃんも兄弟いるの?」
『いるよ、大きい…凛くん?より大きいお兄ちゃんがいるよ』
「ごほ…っ」
盛大にむせた。
「凛にぃ…っ!」
『わわっ、ちょっと大丈夫!?』
背中をとんとんと叩いてくれる妹に大丈夫、という手振りをしながら、息を整える。
びっくりした、いきなり名前で呼ばれるなんて思わなかった。
「凛にぃ…」
泣きそうな妹の頭を撫でると、ちょっと安心した顔。
固まったままの春樹さんにも気にしないでください、とジェスチャーを送る。
『ごめん、ええっと名前、間違えて言っちゃった…?』
そんなことないです、と首をふる俺の前で、弟が声を出す。
「凛兄は、水戸部凛之助っていう名前なんだよ!」
『あ、だから「凛兄」か…』
「うん!」
凛兄はすごいんだよ!作ったご飯は美味しいし、あやとりが上手だし…
身ぶり手振りを加えて、興奮気味に話す弟の口をやんわりと塞ぐ。
恥ずかしいから、それ以上しゃべらないで。
ほら、春樹さんもびっくりして…
『…キミたちのお兄さんはすごいんだね。二人ともお兄さんが大好きなんだ?』
「ぷはっ、うん!」
俺の手を口元からはがして弟が。
「…うん」
俺の後ろで控えめに、でも嬉しそうに妹が。
『ふふふ、』
そして春樹さんは、またきれいに笑うから。
俺はまた、ふわふわとして落ち着かない。
なんなんだろう、この感じ。
懐かしいような、はじめてのような。
わかんない…
けど、
「(…嫌な感じはしないかな)」
笑い合う三人を見ながら、俺はもう一度首を傾げた。
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