Something Blue



 最後は、なにかひとつ青いもの。これは花嫁の純潔をあらわすもので、目には見えないところに身につけると良いのだという。
「サムシング・ブルー。実はね、これはもう用意してあるんだ」
 買い物からの帰り道、手をつないで歩いていると、澄み渡った五月晴れの青空を見上げながら、桜がふとこぼした。寝耳に水だったりんねは、思わず目を見開く。
「知らなかった。それで、何を選んだんだ?」
「秘密。どうせ、誰にも見えないものだし」
「俺にも教えてくれないのか?」
「──知りたい?」
 横から桜が顔を覗きこんでくる。純粋に好奇心に駆られて、りんねは頷いた。
「どうしても?」
 こくり、とまた素直に頷く彼だが、内心胸がざわついた。桜の微笑みが、こころなしかいたずらめいて見えるのはなぜだ。ひょっとして、何か企んでいるのだろうか?
「じゃあ、六道くんにだけ、教えてあげるね」
 つま先立ちになった桜が、りんねの耳元に唇をよせて、囁いた。それを聞いたりんねは、一瞬、頭が真っ白になる。手から力が抜け、あやうく買い物袋を落としてしまいそうになり、強く握りなおした。
「どうかな?」
 どうかな、と聞かれても。反応に困ることを聞いてくるなんて、彼女は見かけによらず、ときどき意地悪だ。困ったりんねは目を泳がせた。そよ風が無性に恋しかった。顔がほてって、熱い。
 外国ではよくあるというが、まさか彼女がそれを選ぶとは、想像だにしなかった。サムシング・ブルー。なにかひとつ青いもの。誰の目にも見えない、花嫁しか知るはずのない、太腿のガーターベルトに縫い止められた、青のリボン。
「私と六道くんだけの、秘密だよ?」
 秘密は知ってしまった。けれど結婚式の夜までは、花嫁がドレスを脱ぐその時までは、たとえ花婿といえども、お目にはかかれまい──。
 ジューン・ブライドまで、あと一週間。その日を迎えるまで、心臓がもちそうにない花婿だった。




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