turning




 油屋の庭で実りかけているとうもろこしやレタスに水をやっていた千尋は、首筋に照り付ける灼熱の陽光を感じながら、額に浮かぶ汗を手の甲で拭った。
 いちど大きく背伸びをする。杓を桶に突っ込んで、千尋はレタス畑のそばにしゃがみこんだ。まだ幼いレタスのひとつをじっと観ていると、ちいさな青虫が青い葉をゆっくりとのぼっていった。そのやわらかそうな葉の上で、振り撒かれた水滴が宝石のように輝いている。

 この世界にきて五度目の夏を、千尋は迎えようとしていた。
 もうすぐ十六になる。

「だいぶ育ってきたね、千尋」
 穏やかで優しい声とともに、細長い人影が千尋の頭上に降りかかった。振り返ると、白い水干を着たそのひとはそっと微笑んで、彼女の肩に手を置いた。
「ねえハク、あとどのくらいで食べ頃になると思う?」
 青虫を小枝の先でつつきながら何気なしにそうきく千尋に、ハクは穏やかなまなざしを向ける。
「あともう少しだよ。きっと」
「もう少しって、どのくらい?一週間?一ヶ月?」
 小枝に乗せた青虫をレタスの頂上に降ろしてやりながら、千尋は小首をかしげた。
 彼女に倣ってしゃがんだハクが、ふっと静かに吐息をこぼして笑う。うなじを撫でるその感触がくすぐったくて、千尋は微かに身じろぎした。
 ハクは声をひそめて、子供が内緒話をするように囁いた。
「もう少し。……あと少しだよ」
「ハク……」

 ハクは何を待っているの。

 そうとはきけずにほてった頬を押さえながら、千尋は俯いた。
 




end.


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