Lets cooking!
「パイ投げしたい」
なまえが言うことは、いつも唐突だった。
有言実行という言葉がよく似合う。
ある日はスキーをしたいと言い、探さないでくださいという置き手紙を置き、北海道へ行った。
そのまたある日はサーターアンダギーとゴーヤチャンプルーが食べたいと言って、一週間沖縄に行った。
キッドは、まさかパイ生地の材料から作ってしまうのではないかと、苦笑をする。
「なので、1年前からコツコツ作っていた材料で作ることにする」
あ、準備してたのね。
調理室行ってくる、と言ってなまえは廊下を駆け出す。因みに今は授業中である。先生可哀想だな、と同じ教室の生徒は思いながらなまえに手を振った。
二時間後に教室に帰ってきたなまえは、チョコまみれだった。全身チョコの匂いがして、夏だったら蟻に群がられたら大変だろう、とキッドは思う。
なまえが他のクラスから野球部を集めてチョコケーキ投げ大会をしたと言った。
「え、パイ投げじゃなかったの?」
「今日はバレンタインだから、特別。
来年はちゃんとしたパイ投げする」
手についたチョコレートを舐めながら、なまえは笑った。キッドは呆れながら、濡らしたタオルでなまえの頭を拭いた。
「キッド、食べる?」
なまえがチョコレートまみれの手を差しながら言うと、キッドは乾いた笑みを溢して、首を横に振った。
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