「送ってやるよ」

ケケケ、と独特な笑い方。
鈴音は先に帰ってしまって帰り道も分からないし、ヒル魔先輩に頼ることにした。
ありがとうございますとお礼を言って、校門を出る。
一年組とは別方向なようで、校門で皆と別れることになった。大きく手を振ると、気を付けろよー等声が聞こえてきて少し嬉しかった。

「早く行かねえと置いてくぞ〜」
「わ、待って下さい」
「待たねえ」

また笑いながら、ヒル魔先輩は早足になった。
私が追いついたらまた引き離すように少し前に走って行く。そして私が走って追いつく。
そんな馬鹿みたいなことを繰り返した。
けれど私の体力にも限界がある。
しかし今止まってしまえば先輩は本当に私を置いていってしまうだろう。
一か八か。

「ぐ、うおっ」
「止まった!!」

ヒル魔先輩の学校鞄を引っ張り、飛び付いた。
鞄から腕の中の鞄からはガチャガチャと聞こえる金属音。もしかしたら学校で振りかざしていた銃かもしれない。
恐る恐る顔を上げると、なんと。
ヒル魔先輩の顔は真っ赤だった。
暗い視界に月明かりで反射して綺麗な金髪。
男性のものとは思えないほど白い肌。
そして、少し赤くなった頬。

「え?ヒル魔先輩、ほっぺ。えっ」
「うるせえ喋るな一言でも発してみろ置いていくぞ」

私が顔を縦に振ると、ヒル魔先輩は無言で歩き出す。
私は駆け足で追っていく。

どういうことなのだろうか。
あんなのウブな中学生が好きな女の子に抱きつかれた時にする反応と同じではないか。
しかしヒル魔先輩はまもり先輩のことが好きなはず。
それで私に嫉妬をしていた。
だからチョッカイをしてきたのだ。
そしてベンチで話す私をチラチラ見てきたのは、まもり先輩とあまり話して欲しくないから。
今回私を送ろうとしているのは、無視して放っておいたら、まもり先輩と鈴音が怒るから。
その筈だ。
いや、待て。落ち着け私。深呼吸をするんだ。
深く息を吸うと、冷たい空気が肺を出たり入ったりする。
昼とは打って変わった空気。
半袖は少し寒かった。
身震いをして考え直す。

ヒル魔先輩のチラチラ見てくる視線。
鈴音の『鈍感さに嫌気がさして』という言葉。
頭痛がするジェスチャーをして練習に戻る鈴音。
赤い顔のヒル魔先輩。
子供みたいにチョッカイを出すヒル魔先輩。
小学生みたいに、かまってほしいような。
ウブな中学生のような反応。

好きな相手にするみたいな。

まさかヒル魔先輩は私のことが。


全てが噛み合った。
外れていたら恥ずかしいな。
チラリとヒル魔先輩に目を向ける。
試しに、そろりとヒル魔先輩の上着の裾を掴んでみる。
ヒル魔先輩は顔を逸らした。
耳は真っ赤。
怒っているかもしれない。
けれど怒っていたら容赦なく銃を向ける。

「……あ」
「喋んな」
「あの、ヒル魔先輩って」
「喋んなっつってんだろ」
「小学校の頃、私と、ぶっ!」

顔に何か布のようなものを押し付けられる。
布、いやヒル魔先輩の上着から顔をやっと離すと、そこにはヒル魔先輩はいなかった。
置いてかれた、と思い辺りを見回すと、いつも通学に使う最寄り駅の前だった。

駅のホームに向かいながら、小学生の時の事を思い出す。
確か、あのとき約束をしたんだった。
何の約束だったかは忘れた。
でも明日ヒル魔先輩に聞きに行けばいいかな。
それに、この上着を返さなきゃいけないし。
ヒル魔先輩は、何があったか教えてくれるかな。

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