アメフト部の練習が終わったのは、7時ちょっと前だった。辺りが暗くなり始めた頃、ヒル魔先輩は集合をかけた。
その間に私とまもり先輩はベンチの周りを片付け、練習に使った用具を部室横の小さな倉庫に入れに行く。

重い、暗い、手が痛い。
その三つが頭の中をぐるぐる回る。
まもり先輩はいつもこんな物を持っているのか。
女性になにさせてやがる。
思いつく限りの悪態を付きながら倉庫の扉を開ける。

用具に傷付けたら10万!

ヒル魔先輩のとても良い笑顔とその言葉がふと浮かんだ。
ヤバイ。ポイとかしちゃいけない。絶対怒られる。
倉庫の奥の方にゆっくり移動して、しゃがんで細心の注意を払いながら、ゆっくりゆっくり降ろした。

「何ノロノロやってんだお前」
「え?」

後ろを見ると、すれっどましーんとやらを持っている短い金髪で、頬に十字の傷がある青年がいた。
随分重いようで、黒髪の下睫毛がある青年もいた。

「や、ヒル魔先輩が傷付けたら10万って」
「そんなの俺たちは何十万払わなきゃいけなくなるんだよ。大体元から傷付いてんだからバレやしねぇよ」
「ほら後ろつっかえてんぞ〜」
「わっ、あ、スミマセン」

いそいそと退いていくと、二人の青年はケラケラ笑っている。
その二人の後ろにいたサングラスの金髪の青年は「俺を除け者にすんな」と叫んでマットを投げつけていた。
倉庫の方から笑い声が聞こえた。
あ、仲良し三人組なんだ。楽しそうだなあ。
グラウンドの残りの用具も片付けよう。

「あの、みょうじさん!」

グラウンドに向かって走っていると、呼び止められた。
ピタリと止まって、声のした方を見るとそこには主務さんがいた。何の用だろうか。

「あ、主務さん。下の呼び捨てでいいですよ」

さん付け慣れてないので、と付け足す。
主務さんはらだー?という紐のハシゴみたいなものを抱え直して、嬉しそうに笑った。
月の光と相まって、その笑顔は随分明るく見えた。

「なまえ、あの、まもり姉ちゃんには、僕がアイシールド21って事はまだ、内緒なんだ。だから」
「主務さんって呼ばないほうがいいんですね」
「うん。あと、タメ口でいいよ。同い年だから」

主務さん、いや。
セナはそう言って笑う。
笑いの絶えない部活だなあ。
相当楽しいんだろうな。

「じゃあ、セナって呼んでいい?」
「いいよ。何か困ったことあったら言ってね!」

選手兼主務だから!
得意げに、セナは言った。

選手の方が似合ってるよ。

ストレートに言ったら、セナは喜んでいいのかよく分からなかったようで、複雑そうな顔で苦笑いをした。

「あと、ヒル魔先輩がなまえのこと呼んでたよ」

セナ。私は今困っているどうしよう。

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