秋音さま 
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 沖矢昴としての生活に慣れ始めたのはどれぐらいからだっただろうか。

 立場を利用していろいろと好き勝手やっているわけだが、おもしろい事件であれば首を突っ込むし、そうでなければ放置する、なんてことがコントロールできるのはありがたいことだ。先日の泥棒騒ぎについてもそうだ。参加したいと思えば参加できる。したくなければ興味がないまますごせばいい。

 夕食の買い物を済ませて帰っているところだった。見覚えのある女性が男子高校生と楽しげにしているところが見えた。周りなど気にしていないのか、ふたりは楽しそうに会話を弾ませている様子だ。窓際のテーブル席で、なにやらお互いに笑顔を振りまいている。

 買い物袋が大きくないことをいいことに、店にはいって「連れがいたもので」とだけ近づいてきた店員に伝えてからゆっくりとそのテーブルに近づく。

「またお逢い出来てうれしいですよ」
「そんなこと言って。女性を喜ばせるのがすきなのね」
「いえいえ、そんなつもりは」
「その喋り方、なんだかあなたのお父さんみたいね」

 男の子は右手から赤いバラを出した。彼女の左手を取り、指にキスをしてから花を握らせる。

「この花のように、あなたの心に残れる男を目指している、ただそれだけですよ」

 そのキザなことばに心当たりを覚えた。どこかで聞いたことのある物言いと声は、どこか腹立たしさを沸き立たせた。それに手品などと、重なる部分も多い。

「なーんて」

 しかしそれは彼がおちゃらけてみせたせいで雰囲気は消え去ってしまった。

「優奈さん」

 声をかけるとふたりの顔がこちらを向いた。彼女はなんとも思っていない風で、しかし彼は目つきを鋭くさせてこちらを見ていた。男子高校生とは思えない視線だった。

「ああ、沖矢さん」
「こんにちは。そちらの方は?」

 はじめまして。そのはずなのに、ことばがでないのは野生の勘だろうか。

「わたしの友人くん」
「黒羽です」

 少し嫌そうな顔をしてみた少年は、制服に身を包んだ、言わば格好良い部類の人間だった。こんなところで先輩とは言えない年齢の女性とお茶をしている理由はよくわからないところだが、どうやら優奈さんの様子を見るに仲が良いらしい。

「正確には友人の息子さんだけどね」
「まさかこんな歳になってまで会ってくれるとは思ってなかったぜ」
「あなたのお母さんにお願いされただけよ」
「ちぇ、もうちょっと遊んでくれてもいいのに」

 彼女は少年を軽くあしらうと、席を立っておれを座らせた。

「お手洗いいってくるわ。昴さんもよかったらなにか頼みなさい」

 入れ違いでやってきた店員にコーヒーを頼み、なんとも不思議な組み合わせとなってしまったことを多少は後悔した。本来のおれであれば特に気になどしないが、いまは沖矢昴として存在しているのだ。

「……そういえば、さきほどの手品、お見事でしたね」

 黒羽と言った少年は、あからさまに顔をひきつらせた。げ、という声をあげそうなほどの表情だった。

「なにか見られてはいけないわけでも?」
「そういうわけじゃないんっすけど」
「けど……?」

 追い詰めたつもりはなかったが、彼は居心地の悪そうな顔をした。

「苦手なんですよ」
「なにが、ですか」
「あなたが!です!」

 強めに言われると多少の切なさを感じるものだ。とあるひとには散々噛まれているわけだが、若い少年に初対面でここまで警戒されるとさすがに傷つく、とでも思っておこう。

「どこかでお会いしましたか?」

 あまりの苦手意識っぷりに聞いてみた。好奇心だとかそんなものではなく、ただ単純に気になっただけだった。

 すると、どうしたことだろうか。彼は黙ってから余裕そうに歪んだ笑みをつくって見せた。それでも眉間に皺を寄せているところ、本当におれが苦手なのだろう。

「会っていませんよ、おれとはね」

 その口振りからすると、誰かとは会っているということだ。

 優奈さんが帰ってくるのを察知したらしい彼は、「帰ります」と席を立った。一丁前にお金はテーブルに置いていた。

「え、帰るの?」
「すいません、きょうはこれぐらいにしておきます」
「わかったわ、またね」

 彼は一応、頭を下げた。

「黒羽くん」

 足が止まった。

「はい?」
「もう一度、見せてくれませんか?」
「なにをです?」
「先程の手品です」
「はー?」

 嫌そうにしてはいるが、中の良い優奈の目が見たい、と訴えていた。その視線に耐えきれず、彼はため息をついて近づいた。

 一瞬のうちに出したバラからではなく、近づいたことによって覚えのあるにおいが香った。

 差し出されたバラを受け取って、はじめて自分の口が笑った気がした。六冠が働いていたのかもしれない。

「ああ、こんなところに」

 手を伸ばして彼のやわらかい髪に触れた。そこから一枚の花びらを出してし返してやる。

 この野郎。彼の顔がそう言っていた。彼は鼻で小さく笑いながらおれを睨み、そして店を出ていった。

 驚きの顔をしたかと思うと優奈さんは楽しそうに笑った。

「知り合いだったの?」
「いえ。あの子とは、お会いしてませんでしたね」





最後に

『赤井さん(沖矢さん)が街中で普通に高校生してるキッドに気付いちゃう話』とのことでしたが、それにそえているかはわかりません……(正直そえていない)
時系列的にはじゃんじゃんばりばりのあとのつもり


なんて改まったような言い方してみたがな、
実のところ「鬼や」と思いました、本当にあなたは鬼です。

あと、それと、
はっぴーばーすでいとぅーゆー



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