「………よし、準備はできた!」
さようなら、お父さん、お母さん。
そして生まれ育ったこの世界。
少女は笑みを浮かべて、はじまりの星空を見上げた。
「もう、ひと月か……」
ふと暦を見れば、なまえがいなくなってからそんな日数がたっていた。
静かな私室に違和感をまだ少し感じる自分に自然と口角が自嘲の笑みへと形を変えた。
もとは、それが普通だったというのに。
いまはそれが普通ではない、なんて。
なまえに言ったらきっと調子に乗るのだろう(だから我は言わないのだ、)(もう言う相手はいないけれど)
いきなり来て、いきなりいなくなる。まるでまぼろし。
「寂しいなどとは、絶対に言わぬぞ……」
もう仕事にも手をつけられそうにないから庭へと繰り出そうか。ああそういえばあのときも庭におりてきたのだったな。なんて考えながら庭を歩きまわる。
返事は用意したのだ、だからまた降りてこい………、な…!!
「にぎゃっ!!」
「っ……………!」
「…う、いったーい……あれ、ここは………って元就さん!!わ、本当に戻ってきたんだ、わたし!」
「……、なぜだ。なぜ、また……」
「あれ、元就さんもしかして若ぼけですか、それは大変病院に行かなくちゃ!」
ずいぶんと失礼なことを言う目の前にいる娘をうえからしたまで見てしまう。ああ、間違えない。あの日と同じように頬に手を添える、ああちゃんといる、さわれてしまう。
「だって元就さん言ったじゃないですか、戻ってきたら返事を言ってやるって。だから、ちゃんときたんですよ!」
「そんな簡単に行き来できるのか…」
「いいえ、まさか。無理ですって」
きっとあれは準備期間のはじまりだったんです。どちらの世界を選ぶか、そしてお別れの時間。わたしが弱音を吐いてたから神さまがくれたのかな。
それでわたしはこっちを選んだから帰ってこれたんです。
なんてカラカラと笑うなまえに、余計な心配をさせおってと突っ込みたくなったがどちらかというと気になることが。
「なまえ、本当にあちらの世界はいいのか…?もう戻れないのだろう」
「……そーですね。でも、それでもあっちよりこっちのほうが幸せなんです。だって、元就さんがいるから!!」
赤く頬を染めて、それでもはっきりと言う姿に苦笑がもれた。いつでも我は後手に回ってしまうな。
「我の答えを知りたいのだろう??」
「え、ええ。……ちょっと怖いですが、」
「そう構えなくてよい」
さて、策士と言われるのだからそれなりに策をめぐらせてみようか。それとも、たまには我らしくなく進んでみるのもいい。
とりあえず引き寄せて、耳に口を持ってゆく。どう言ったって内容は変わらないのだからそれでよいはずだ、ろう。
数日後、普段静かな城には笑い声が響くようになる。そして、その後。かの日輪の申し子の横にはずっといつからか突然現れた少女がいたという。
〜fin〜
(p)△( n)
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