「れっどくんの………ばかぁああああ!!」
「……ばかなのは、ミオのほうだし」


ぼくは叫んだ、吹雪が舞うシロガネ山の頂上で。対するレッドくんは静かにぼくを否定して、それにまたぼくはムカついて唇をとがらせた。そんなぼくたちの様子にボールから出ていたぼくのリオルとレッドくんのピカチュウはオロオロとしているけれど、いまはそれに構っている暇もなく。



「ああもう!有り得ないんだよう、ここは絶対にゆずれないんだからねえ!」
「オレも、ゆずる気、ないし……」
「ふん、いいもん、家出するから」
「…………勝手にすれば。」
「勝手にするよう!いくよーリオル!」
「り、りるっ!?」
「キミに決めた、ムクホーク。麓までお願いねえ」
「む、むくほーく!?………むく、」
「………………レッドくんの、ばーか」


最後にちょっと呟いて、ぼくはムクホークに乗り込んだ。






「………てなわけで、出てきたんだよう」
「いやわかんねえから、ちゃんと説明しろって。ちなみにかくかくしかじかもダメだからな」
「グリーンくんのお約束破りー!!」



マサラタウンから帰ってきて数日後の出来事。
まあ、ぼくがシロガネ山を出てこの世界で行けるところといえば限られているわけでして。軽く詰めた荷物を持ったぼくはそのままジムをあけようとしていたグリーンくんのところにやってきた。相変わらず目がチカチカするジムだよねって言ったらうるさい、と頭を叩かれたのでもう言いません。ジムの奥の奥、挑戦者がジムトレーナーのみなさんにコテンパに倒されているのをお茶を飲みながらグリーンくんと眺めながら、さっきの会話に戻る、と。


「んで?お前がこんなとこにいるっつう理由はレッドと喧嘩したってことでいーんだろ?」
「…わかる?」
「まあな。じゃねえとお前簡単に降りてきたりとかしねーだろうし」
「そーだよ、まったくそのとおり。意見の違いってやつ」



あ、挑戦者のブーバーが倒された。完全にダウンしたブーバーを連れて去っていく後ろ姿を見届けて、グリーンくんのほうを向く。はあ、と呆れたような表情をしたグリーンくんは、レッドくんと喧嘩とかしたことあんのかな?(なんだかんだで)



「グリーンくんは」
「ああ」
「目玉焼きには醤油とソースどっちをかけますか?」
「ああ醤油………って、は?なにそれ」
「だよねーだよねー!これがケンカの理由だよう!ああもうレッドくんたらソースだって言うんだよ、有り得ないでしょう!!」
「…………なんつう、下んねえ理由なんだ」
「くだらなくたってぼくたちにとってはそれが大切なことだったの!…なんかこういうので理解してくれないって、かなしいんだよう?」
「あーはいはい。つまりは互いに譲れなかったんだろ。んで延長線で家出した、と」
「うん。とりあえずはグリーンくんにお世話になろうと思って。行くところないし」
「って言われてもなあ……オレだってジムリーダーしてんだ、そんなにお前のこと構えねえよ」
「衣食住いただければなんでもいいです。逆にこのジムの改造とか手伝ってあげようか」
「…遠慮しとく。てかお前そこはなあ、ジムトレーナーやりますぐらい言っておけよ」
「だってグリーンくんたらジムを留守にしがちじゃん。時間稼ぎにバトルとか絶対やだし」
「げっ、バレてたか」
「って冗談だったのに!?」
「…………ふ」
「………」


留守しがちとか、前情報があったからわかってただけなんだよう。あとは適当だったのに。グリーンくんも責任感とかは強いけど面倒くさいものは面倒くさいらしい。



「でもなあ、ジムにおいとくわけにも…………あ、そーだ。お前旅にでもでたら?」
「たび?」
「おう。シロガネ山にずっとこもりっきりとか勿体ねえし。んで各地のバッチ集めてこいよ、ここ以外の集まったら、オレが相手してやる。そしてリーグに挑戦すんのは自由だけど、そしたらシロガネ山だって堂々とはいれんだろ」
「…………」
「ポケモントレーナーだったら、ケンカはバトルでしな」



……なんか、見透かされたみたいでムカつく。だけどまったくその通りだったから、だよ。自分で決めて、ぼくはここに、背中をおしてもらいたくて、きたようなもんなんだようなんてことがさ。


「………うん、そうだねえ。そうする、けど!レッドくんと仲直りしたいからするんじゃなくて、世界を見たいからするんだからね!」
「あーはいはい。気をつけていってこい」
「適当、反対!いいもん、ジョウトからまわってバッチ16個集めてやるんだからね、もちろんグリーンくんもコテンパにしてやるんだよう!」
「そりゃあ大変だな、覚悟して待っててやるよ」
「……うん!」



にやりと笑ったグリーンくんに、ピースサインで返してぼくはその場から立ち上がった。カントー地方とジョウト地方は少なくともまわってみせる。その途中で新しいパートナーたちに出会えたらいい。もしかしてまた、物語の主人公たちに会えるかもしれないし。冒険って胸をワクワクさせるものだよね。



「じゃあ支度してすぐにでもいくよう。まだ日は高いし、ニビくらいまではいけるよねえ」
「ムクホークでいけばすぐだろ」
「そのとおりだけど、チートじゃん?…ま、いっか。ジョウトをスタートにすれば」
「見た目によらずミオも適当だよな」
「よく言われるー。てなわけで、いってきます、グリーンくん!」
「おうよ。いってら」
「…ありがとねえ」
「………おう、幸運を祈るってな」


いろいろ全部、ありがとう。
笑って手を出せば、わかったようにグリーンくんを手を振り上げて、ハイタッチ。パン、と音が響く。旅をした、先輩からエールってやつだ。ちょっと痛かった、引きこもり体質だったぼくにはまだ受け止めきれないんだ。…これから。


「じゃあねー!いくよ、リオル!」
「りるっ!」



これであっさりとぼくは出て行く。笑って手を振って、振り替えされる。だってこれでいいって知ってたんだ、窓の外の気配にだって。もと情報屋ナメちゃいけないよう?
でもまだスタート地点にすら立っていない。だから振り向かずに行くんだよ。
まずは……………旅に向いた服を手に入れよう。







「……てなわけで旅立っていったぜ?」
「………」
「まったく。」


グリーンはミオが出て行ったあと端の窓をあけ、そこにいた人物に声をかけた。思った通りの人物の姿に軽く笑って、窓枠に寄りかかる。


「オレはおまえがソース派なんて知らなかったぜー」
「…………」
「てっきりオレとおんなじ醤油派だって思ってたんだけど、勘違いだったか?」
「……さあね」


くいっと帽子を下げる仕草をするレッドにグリーンはくくっと笑って体を後ろに倒す。窓から身を乗り出して見る空は、こんなにも青くてキレイだ。あの山にこもりっきりのこいつも、ジムなんて狭いところに押し込まれてしまった自分も、それを少し忘れていたんじゃないか、なんて、思わされるとは。
いつも口数が少なくて、表情も動かさなくて、本当にポケモンにしか興味がないんじゃないかと一度本気で考えたことのある幼なじみがこうやって誰かのために行動するなんて、愉快で。槍どころか空からマリルでも降ってくるんじゃないのか。横で、考えて、言葉を吐き出そうとしてるときの不機嫌ともとれる表情をした幼なじみを見てまたおかしくなった。
ふとグリーンは自分の手を見つめて、さっきタッチした手を思い出す。真っ白くて、ほっそい手。オレたちなんかと違って旅なんてしたこともないだろう、少女の手。あんなので、人間を動かせるなんて思ってもなかった。むかしは知りもしなかったけど。




「グリーン。ミオにもっと世界を見せてやりたかったんだ」
「だったらあんな突き放すことはなかったんじゃねーの」
「……あれで、いいんだよ」
「ま、おまえがそれでいいならいいんだろ。……なんか久しぶりに楽しみが出来たって顔してるよおまえ」
「うん、楽しみだ。成長したミオとバトルするの、あとほかにもきっとなにか起こる」
「ふーん。ま、ちゃんと巻き込まれてやるよ、幼なじみ」
「頼りにしてる、ライバル」
「それ久しぶりに聞いたな!オレもただじゃあ負けられねーし、もっとまじになるか」





きっかけはなんであれ、旅はさせてみるもんだ
オレたちだって、まだ頂点なんかじゃないんだから。
出来るんなら、また旅をしてみたかったんだ。








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