オーキド博士のポケモン研究所、レッドくんとグリーンくんの旅のはじまりであって、こちらの世界の有名どころで言えばポケモン研究の権威といってもよいところだと思う。こんな田舎町には不釣り合いなちょっと大きな建物を見上げて感嘆の息をもらした。こっちの技術ってぼくたちの普段の科学技術なんて追いつかないほど進歩しているからさ、きっと所謂10年後レベルに分野は違うけれど進んでるんじゃないかな。だからすごくいじりたい、機械を全部分解したい。んで作り直したい欲求が生まれるけれど、いまはあきらめてレッドくんのあとを追う。
研究所のドアを開けてレッドくんは慣れた様子でなかに入って行き、肩に乗ったピカチュウがぼくに向かって「ぴいか!」と促したため慌ててぼくもそれに続く。中に入ると途端に聞こえてくる人の声、機械の音、ポケモンの鳴き声。
やっぱりパソコンとか機械の音って好きなんだよねえ。将来はこのまま情報担当とかになるのも楽しそうとか思ってたし、とまあもう関係ないけどね。邪魔になるといけないので足元にいたリオルにおいで、と声をかけると喜んで腕のなかに飛び込んできた。えへへへ!相変わらず甘えん坊でかわいいんだから!無駄に撫でちゃうんだからねえ!
忙しそうに働く数人の研究員の人たちの間をすり抜けて、レッドくんは奥に進んで行く。きっとそこにいるんだろうなあ、オーキド博士。

「………………博士、」
「…お?おお、お!おまえレッドか!双子の言うとおり本当に帰って来てたのか!元気にしておったか!?」
「…まあ、それなりに?」
「はは、そうか、それなりか!ピカチュウも元気そうだな!まあそこまで心配はしておらんかったが、死亡説まで一時期は流れておったぞ?」
「………」
「相変わらず無口じゃのう……グリーンと足して割ったら丁度いいんじゃないのか?」


オーキド博士を見つけたレッドくんはとりあえず話しかけるものの、あっという間にいつもどおりに無口になった。それをぼくはちょっと遠くで見学。いや目上のかたにもそれだったんだ、レッドくんらしくていいと思うけど、まあ。しばらくレッドくんに向かって懐かしい、とか久しぶり、とか話してたオーキド博士がこちらに気づいたようでぼくと、ぼくが腕に抱いているリオルを交互に見つめて「お客さんかの?」と問いかけてきた。それにレッドくんが珍しく自分から口をひらいて「……連れ、マサラを案内中……」と言ったからぼくはちょっぴり驚いてしまった。


「はじめましてオーキド博士、ミオと言います」
「ミオか、ふむ…よい名じゃのう。こっちは……リオルか。カントーではなかなか見ないポケモンじゃな、お嬢さんはシンオウかどこかの出身か?」
「あ、いえ……一応(現代日本で漢字のほうだけど)カントー?で、この子はたまごを(誰かわからないけど)もらったんです」
「? いま余計な言葉が入らなかったかの?」
「いえ、全力で気のせいです」
「む?そうか、わしも年かの……」


最近腰痛もあってのお、と呟く博士は近くで見るとアニメの博士にそっくりでちょっと笑いそうになった。



「博士、図鑑」
「おお、そういえばパワーアップするから来い、とグリーンに伝えたこともあったようななかったような……」
「………」
「…その無言で渡すのは止めてくれ。無駄に迫力があって困るんじゃよ。まあいい、小一時間ほどかかるからの、どっかで時間潰しておれ」
「……わかった。…行くよ、ミオ、」
「ちょいと待った。こちらのお嬢さんにはせっかく来たのじゃ、話をしてみたい。なあに、珍しいポケモンを連れておるトレーナーさんと話してみたいだけじゃよ。よいかのミオ?」
「あ、はい。……あ、レッドくん」
「…?」
「いってらっしゃい!」
「……ん、行って、くる」


ひらひらと手をふれば、ひらひらと同じように帰ってくる。そういえばいっつも一緒だから行ってきます、とかいってらっしゃいってあいさつすることあんまりないよね、とか思いながらオーキド博士に向き直る。


「それでお話って……?」
「なあに、そんな身構える必要はないんじゃぞ。言った通りちょいと世間話をしてみたかっただけじゃ、じじいの道楽とでも思ってくれればよい。レッドじゃあつまらんからなあ。そこにでも座って」
「あ、ありがとうございます……。リオル、このままでいーい?どっか見てる?」
「りるっ!りりる!」
「このままでいいんだねー、じゃあ一緒に後で見せてもらおっか!」
「りーるっ!」
「ふむ……とても懐いているようじゃの。じゃが進化はさせんのか?」
「あは。会う人ってみんなけっこうそれ聞いてきますね。だけど、きっと、させないです、だってこう見えてぼくのリオルはまだ生まれてふた月もたってないんですよー」
「んなまた冗談を?」
「本当ですよー!レッドくんの相手ばっかりしてたらこんなに強くなっちゃいましたけどねえ」
「それもあるんじゃがな、もうずっと何年も一緒にいたような信頼関係が見えるから驚いたのじゃよ。ミオ、お主本当にポケモントレーナーとしての才能があるかもしれんなあ……」
「そうですか……?だったら…うれしい、かな」



ある意味ぼくはチートだけどねえ。あれ、某チャンピオンのカイリューぐらいにはチートかな。それでもリオルたちに注いだ愛情は本物だけど、才能があるっていうのはレッドくんたちのことを言うんだよ。ぼくはこういうの、うまいから。もともとがそんなんだから。



「それでさっきの答えの続きですけど、リオルはまだ子供です。だけど進化させちゃったら、やっぱりちょっと大人になっちゃうでしょう。だから、ぼくが嫌なんです、もうちょっと、甘やかしてあげたいんです」



だから進化はしばらくしませんねえ、と笑えば「ふむふむ、なら存分に甘やかしてあげなさい、」とオーキド博士も笑った。




「そろそろ終わるなあ。思ったよりも話し込んでしまったようじゃ。ありがとよ」
「いいえ、ぼくも楽しかったですもん」
「ほっほっ。あやつも外で拗ね始めてるころじゃろうから呼んでおいで」
「あー、ピカチュウのほっぺをつっつき始めてますね」
「まだ止めんのか、その癖」



いつまでも変わらないものだな、と笑うオーキド博士にそうですねえと笑って返して、リオルと外にむかう。
きっとチャンピオンになったって、伝説のトレーナーって呼ばれたって変わらないってことでしょう?
当たり前だよう、博士。人間ってそう簡単に変われるものじゃないんだ、いい意味でも悪い意味でも。ぼくだって。
研究所の裏でピカチュウのほっぺをつついているレッドくんを見つけて、ぼくがかけだすまであとちょっと。


変わらないよ、なにもかも
(レッドくーん!終わったって!)(…………うん)




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