鬼たちの頭上をツキヒは一気に駆け抜ける。途中光秀さんたちを見た気がするから追い越した?


「ふあぁああ!すごい、すごいのじゃミオ!」
「乗り心地はどうですか、姫君」
「最高じゃ!空を駆けるとはミオの狼はすごいんじゃな!」
「ツキヒっていうんだよ」
「つきひ、か!とても素敵な名前じゃ」


戦場で不謹慎だってわかってるけど楽しそうに笑うガラシャちゃんにこちらも楽しませたくなる。つきひ、と声をかけてさらにスピードをあげる。もちろん炎を操って敵を薙ぎ倒すのも忘れていない。併走してくるジャックランタンがとても怖い。なんで着いてこれるの。
ガラシャちゃんも所謂ファイヤーボールという魔法のようなものを使ってなかなかにすごい。どうやってるの?と聞いたら「ぐわー!っとやってがー!とやるのじゃ!」と言われてしまいました。ぼくは魔女っ子にはなれそうにありません。


「さてガラシャちゃん、光秀さんたちが到着するまで暴れようか」
「望むところなのじゃ!」


ツキヒからガラシャちゃんが降りたのを確認してから、上に飛ばしてもらう。目指すのは一匹だけ大きい鬼のうえ!
「踏み潰してくれる!」なんて怖いこと言われちゃったら上に避難するしかないじゃないか。あ、あいつガラシャちゃんを狙ってる。ザンザスお兄ちゃんじゃないけれど、憤怒の炎を飛ばしてやろうか?
ぼく足元の象みたいなそいつを凍らせて、ざっくりと砕いて撃破してたら光秀さんたちがやってきた。やっぱりツキヒのスピードはすごいんだ。RPGだったらレアアイテムだよなとか思ってみたり。



「父上!」
「珠、大丈夫ですか?」
「はい!ミオが守ってくれました!」
「あとでお礼を言うのですよ?」
「もちろんじゃ!」
「よし……出てきなさい!そこにいるのはわかってますよ!!」


しゅばっ!と居合い抜きの動きで剣圧のようなものをある一角に飛ばした光秀さん。すると、趣味の悪い色をした服の、多分術士が姿をあらわした。……だからなんでわかるんですか明智さん。超直感もちのぼくだってしばらくわからなかったのに!


「むむ、あとはあっちじゃな!」
「ミオ、稲はあちらにいきますので、ミオはそっちへ!」
「おっけー!まかせて!」


示された一角に駆け込むと、もう姿は消さないほうがいいと判断したのか妖術士たちは姿を見せて攻撃してきた。手に持ったナイフに宿らせた炎の力でそれを避けるように宙に浮き、一気に距離をつめる。あいつが多分ボス、だ!
頭のうえに着地し、そのまま踵落としを決めてさらに顎に蹴りをかませば一丁あがり!後ろに倒れて動かなくなる。そして周りのやつらも嵐のように銀食器を巻き起こせば嵐っさりと吹っ飛ばされて動かなくなる。…ぼくって力ないはずなんだけどなあ。妖術にばっかり頼ってるからそうなるんだよ。ぼくの知り合いの幻術使いたちを見習ったほうがいいよ……って危ない危ない。油断してたら凍るところだった。


「こちらは倒しました」
「弱かったのじゃ!」


遠くからふたりの声が聞こえてきた。…霧が晴れていく。山頂から見下ろせばすぐだ、あそこに孫悟空がいる。けれど。


「動きだした!?」
「あちらは本陣の方向です!大変、星彩が……!」


いっちゃんが駆け寄ってくる、うん急がなくちゃいけない。だけど、また戦場が動くそんな予感がする。


「孫悟空は、稲が討ち取ります!ミオ、先に行きますのであとはお願いね!」
「あ、ちょ…いーちゃん、行っちゃった……」
「わらわたちもいくのじゃ!急がねば危ないのじゃろう?」
「ちょ、ちょっと待って……なにか、くる!」


『がははははは!なんじゃこの戦場は女だらけではないか!これでまたわしの野望に近づくものよ』


「相手側の援軍だあ……」
「あれは、董卓…。無類の女好きでよく若い娘を捕らえては自分のものにしているらしいですが…」
「はあっ!?せいちゃんもいっちゃんも危ないじゃんか!ちょっぼくも行きます!!」
「あ、ミオ!」


ツキヒに飛び乗っていく。ごめんねガラシャちゃん、でもこんな危険なところにきみを連れてはいけない!


「あっち、西に進んでツキヒ」
《わかってるが…無茶をするなよ》
「さあ、わかんない!でもツキヒもクーピーも、守ってくれるでしょ?」
《………はあ、そうだな。――一気に降りるぞ》


山のうえから飛び降りる。どうしてか衝撃を感じないんだけど、ツキヒが全部緩和しているのかな。――見えた!あのデブが董卓か、あきらかに力じゃ勝ち目なし、先手必勝!フォークを馬の足に突き刺してまずは馬上から引きずり落とす。
見るからにパワー型、ぼくに相手の攻撃は受けれないから逃げ回るしかないし。


「うごっ!なにやつ!?」
「知らなくていいよう、きみはぼくが倒すだけだから。せいちゃんもいっちゃんもガラシャちゃんも、ぼくが守るんだから」
「なにかと思えば女じゃないか!ほーう少し幼いが見事な上玉だ。娘わしのものになれ」
「ひ、ひぃっ!」


董卓がこちらを向いてにやっと笑った瞬間、ぞわりと鳥肌がたった。ダメだ、気持ち悪い。女好きなんかじゃない、こいつは女の敵だ。見た目だけでもう論外。



「そ、そう簡単には捕まったりしないよ!」
「むう、優しくするのは今だけじゃぞう。あとは力ずくでつれていくのみよ!華雄やるぞ」
「っツキヒ避けて!」


いくらなんでも生身でツキヒのスピードには勝てない。ただし周りに雑魚が多い、一回一掃してしまったほうが楽かもしれないや。
ツキヒほどじゃないにしても、ぼくだってスピードを売りにしてるんだから。
一呼吸おいて、ジャックランタンを一瞬で後ろにまわりこませて斬りつけるけれど2撃目はガードされた。防御力も高いのか、やっかいだなあ。それに、この董卓ってやつに従ってるひとりがすごくつよい。華雄って呼ばれてたっけ?多くはまわりの雑魚を倒してるからこっちにあんまり割けないんだよね、戦力。


董卓の攻撃をいなして、ツキヒはその勢いを使って華雄に向かう。よけられたけどそれは予測済みで、体勢が崩れたところを狙う………違うおかしい!崩れない、フェイクだ。そのまま退くこともできないように固定される。
逆方向からは董卓が向かってくる――うわ、絶対絶命………あ。


「……しゅ、ぜん…」
「よう、女ひとりにこれは卑怯じゃねーのか。董卓さんよ」
「小僧、邪魔をするな娘を渡せ…!わしの野望を邪魔するやつは許さんぞ!!」
「いーや無理だね。そんなことしたら上司に殺されるし、オレが納得いかねーんだよ!ミオっ」
「おっけ、クーピー!」


クーピーに声をかけて、炎を吐かせる。それと同時にぼくがツキヒと抜け出すと朱然も董卓を弾き飛ばして、体勢を立て直す。


「ごめんねー助かったよ」
「…まったく董卓さんとやら女の趣味悪いんじゃねーの?こいつ見初めるなんて馬鹿のやることだぜ」
「えぇえ?!ひどい!」
「オレたちのことおいてくは、間に合ったからいいものをこうやってひとり突っ走って危険な目にあうわ……ま、目が離せないこのお転婆娘はあんたの手にはあまるから諦めな」
「くく、女は捕まえておいてこそよ。好きに逃げられるようではいかんぞ、小僧」
「あー勘違いすんな。オレの、じゃなくて上司のだからさ………多分」


チラッとこっちを見る朱然。な、なにもしかしてすごく怒ってる?


「しっかし陸遜殿も趣味悪いね、なんでこれなんだか?」
「なんの話してるのさ、さっきから!」
「しかも直感が優れてるとか言っときながら、こういうとこで見せないし。さきが思いやられるだろ…まったく。おい行くぞ、ミオわかってるな?」
「………いつでも」

ツキヒから降りて、まわりをまかせる。それと共に手のひらに銀食器たちを集めた。
朱然が石を蹴って合図として、ぼくは華雄に朱然は董卓に向かった。1対1なら怖くない、十分倒せる敵だから。


「ジャックランタン!」
「っく……これでどうだ!」


ジャックランタンを一撃で崩し、ぼくへ向かってきた華雄の下段への攻撃を飛んでその刃に乗ることで避ける。もともとぼくを傷つけないように戦うから、詰めてしまえば簡単だ。相手の顎を強く蹴って脳天を揺らしてから手で合図する。

「うしろふりむいて、ごらん?」


できないだろうけど。
そこにはいまさっき崩されたはずのジャックランタンがいて、その身と同じく銀食器と炎で形つくられたナイフを華雄に突き刺した。崩れ、砕かれる身体。結構大切な神経だとかを狙ったんだ。もう今回も、もしかしたらこれからの戦にも参加できないでしょう?
これで2対1、形勢逆転。
朱然に加勢しようと振り向くけれど、そこは鍔迫り合い。これは手を出せないじゃん。しかも朱然はどちらかというとパワーよりかはテクニック型だろうからこのまま続ければ押し負ける。そうすれば朱然が斬られる。それは嫌。考えろ、いまここでできるぼくの最高の手は、これしかない。
実践で使うのははじめてだけどうまくいくはず。だって。


「クーピー、形態変化」


ガウ、と一度鳴いて子ライオンはその身を変化させる。ぼくの手の中に収まった針と糸巻きに炎を込めると、糸がきらきらと舞い上がる。…こんなときだけど、綺麗だよね。


「猪、式――そうだなあ…メリー、クリスマス!」


くるり、と糸を操ればするすると朱然の袖に現れる猪の文様、それが光って力を発揮するとともに朱然が董卓をぶっ飛ばす。



(12番目だから、クリスマス。単純でいい感じっしょ?)









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