ライオンハートU


「っもう、アレン君が困ってるじゃないっ」
「…俺はただ、純粋に二人の関係を応援したいと…」
「本当にそれだけ?二人のこと根掘り葉掘り聞こうとしたんじゃないの?」
「ま、まさか〜。俺に限って、そんなことしねェさ」

ラビは慌てて、首を左右に振る。
すると、リナリーが疑念の篭った眼差しで、ラビを見据えた。

「な、何さ、その目…。俺をまだ、疑ってるさ?」
「別に…」

プイッと、リナリーは横を向く。

「リナリーだって、気になるだろ?あんなに他人に無関心だったユウが、アレンに心許したり、執着する理由をさ」
「え…?」

僕は耳を疑った。
神田が僕に心を許してるって…?

「…まあ、確かに。気にならないと言ったら、嘘になるわ。昔に比べれば、最近の神田は少し丸くなったし…。それはアレン君が、少なからず影響してると、私も思うけど」
「僕が…ですか?」

きょとんとした顔で、僕は二人を見つめる。

「あぁ。ちょっと前までのユウはさ、今よりもっと近寄り難くって、誰かと口喧嘩するなんて、有り得なかったんさ」

近寄り難い…その言葉に、僕は妙に納得する。

「…アレン、ユウが教団内で何て、呼ばれてたか知ってるか?」

問われて僕は、首を横に振る。

「仲間すら見捨てる冷徹人間…だってさ。探索部隊の中には、ユウを“鬼”っていう奴もいたんだゼ。」
「“鬼”…」

探索部隊の、僕たちエクソシストに対する視線には、畏怖の念が込められている。
それは良く言えば、尊敬の眼差しで、悪く言えば、異物を見るような、怪異への眼差し…。
特に神田は、ああいう人を寄せ付けない性格だから、それを助長させていたのかもしれない。

他人を干渉しない代わりに、人を決して寄せ付けない――。
神田はずっと、そうやって生きてきたのだろうか…?

それにしても、“鬼”呼ばわりするのは、酷い気がした。
別に彼を庇護する訳じゃなくて、僕は知ってるから。
彼は不器用ながらも、優しい一面を持っているという、ことを。

「…神田は、幼い頃からずっと、あんな感じだったんでしょうか?」

ふと口から零れた、小さな疑問符。
大きな意味は決してなかった
ただ僕は、自分の知らない神田という人物を少しでも知りたくて。

行った途端、ラビとリナリーは顔を見合わせた。
ややあって、ラビが口を開く。

「…すまない、アレン。俺もリナリーも教団に入った頃のあいつしか、知らねェんさ。俺たちが知ってるのは、“鬼”と呼ばれてる頃のユウ。あいつの過去までは、ちょっと」
「彼が教団に入った経緯も、過去も聞いたことがないわ。…神田自身が"話したがらない"と言った方が正しいのかもしれないけど」
「…そうですか」

ラビとリナリーの言葉を聞いて、僕は少し顔を伏せた。

誰にでも過去はある。
こんな僕にも、言い尽くせぬほどの過去があるように…。

だから神田にだって――。

"話したがらない過去"か…。
そんな過去でも、知りたいと思うのは、きっと僕のエゴなんだろうか。

僕はカップに残った紅茶を一口飲む。
少し冷めて、あまり美味しく感じなかったけど。

「あっ、此処に居たのか。アレンっ」

不意に後方から僕を呼ぶ声がして、振り向ってみると、何やら沢山の資料を両手に抱えたリーバーさんが立っていた。

「この後、司令室に来てくれないか?」
「もしかして、任務…ですか?」
「あぁ。室長の話だと、急ぎ片付けて欲しいヤマがあるらしい」
「…了解しました、直ぐ行きます」

僕は頷くと、トレイを持ち、席を立った。
そしてカウンターへと足早に向う。
食堂から出ていこうとした時、ラビが僕に向かってこう言った。

「アレン、ユウのこと、頼むな」

この時の僕には、その言葉の、本当の意味をまだ知らなかったんだ――。


――コンコン…。


司令室の中から、返事が聞こえた。
それを確認してから、僕は部屋の中に入る。

相変わらず、足の踏み場もない程の、資料が散乱している床を見つめ、その資料を出来るだけ踏まないように注意しながら、部屋の奥のデスクに向かった。

ソファーには、既に先客が座っている状態。

「急に悪いね、アレン君」
「いいえ…」

薄く笑みを浮かべながら、コムイさんが言った。
僕はリーバーさんから資料を受け取ると、ソファーの端に、そっと腰をかける。
先客をちらりと一瞥。
僕の視線に気付かないだけなのか?
まだ、さっきのこと、怒っているのだろうか?
それとも、また別の…。
こちらを全く見ようともしない。


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