ライオンハートT
その日も、いつものように僕たちは些細な事で口論をしていた。
「てめェ、俺の蕎麦、食っただろ?」
「ちょっと味見させて貰っただけじゃないですか。そんなことで怒らないで下さいよ」
「はん、ちょっとだとっ?これのどこが、ちょっとだって言えんだっ」
神田は空になった丼を僕の眼前に差し出す。
麺一本、ネギ一つ、そして汁一滴だって残っていない。きれいなくらい空っぽの丼。
「そんなに食べたければ、ジェリーさんに作って貰えばいいでしょ。そんなケチケチしないで下さい。神田って案外ケチなんですね」
「はぁ?誰がケチだってェ?聞き捨てならねェな、このバカモヤシがっ」
ガタンッと勢い付けて、神田が立ち上がる。
まただ。またこの人は僕のことをモヤシ呼ばわりする。
しかも御丁寧にも、バカという言葉まで付けて。
カチンときた僕も、こうなったら徹底交戦の構えだ。
「ケチな人をケチって呼んで、何が悪いんですかっ。君なんかパッツンテールじゃないですかっ。それに僕はアレンですっ、何度言ったら覚えるんですか?」
僕も怒りに任せて、勢い良く立ち上がる。
「パッツンテールだとっ。俺の何処がパッツンだっ」
「見てくれそのままを言ったまでです。そんなこともわからないんですか?君はバカですか?…あぁ、そうか。バカだから、人の名前も覚えられないんですね」
「っなんだとっ」
神田が腰に携えた六幻に手をかけ。
「…やる気ですかっ?」
僕は左手の手袋のボタンを外す。
神田と僕の睨み合いを見兼ねた誰かが、ここらへんで慌てて仲裁に入ったりするだけど。
「ユウ、アレン…。お取り込み中、大変申し訳ないんだけど…。もういい加減、見飽きたさ、その痴話喧嘩。外でやってくれねぇか?」
僕と神田の前に座ったラビが、少々うんざりした顔で僕たちを見上げた。
「ちっ、痴話喧嘩なんかしてませんよ。何でこんな人なんかと…っ」
「それはこっちの台詞だ。バカモヤシがっ」
「まだ言いますか、バ神田」
ラビの隣に座ったリナリーが、僕らを見てクスクスと笑い出す。
「本当、仲良いわよね」
『「この人と一緒にしないで下さいっ」
「モヤシと一緒にするなっ」』
まるで示し合わせたかのように、神田と僕の台詞が重なる。
「ほら、息もピッタリだわ」
楽しそうに笑うリナリーを一瞥すると、思わず僕と神田は目を合わせた。刹那、プイッと神田が視線を逸す。
そんな、あからさまに逸らさなくたっていいのに…。
僕がふと、そんなことを思っていると、神田はトレイを持って、カウンターへとスタスタと歩いていってしまう。
「あれ?ユウっ、もう食わないの?」
ラビの問い掛けに、神田は舌打ちをした。
「こんな胸糞悪ィ状態でメシなんか食えっかっ」
トレイをカウンターに返すと、神田は早々に食堂を出て行ってしまう。
「…神田も相変わらずね」
「アレンも相変わらずだけどな」
ラビは、皿に残られた食べ物をフォークで突きながら、神田が出て行った食堂の入口を暫く眺めていた。
僕は僕で、多少の苛立ちを感じながらトレイに残った食事を口に運ぶ。
「…ンでさ、アレン。ユウとはドコまで進んだんさ?」
「ん…っ!?」
唐突なラビの言葉に、僕は食べ物を喉に詰まらせた。
な、何を言い出すんだ、この人は。
僕は水を一口飲み、喉のつかえをどうに治める。
「べ、別に、ぼ、僕たちは、そういう関係じゃ…」
「あ〜、その慌てぶり…何か、怪しいさ」
ニヤニヤ嫌らしく笑いながら、ラビが顔を近づけてくる。
「もうキスぐらいはしたんだろ?」
「えぇっ!?キ、キス…って!?」
その言葉に反応して、頬は直ぐに赤くなった。僕の身体はホントに正直で、自分でも呆れる。
「あはは、本当、アレンは嘘が下手くそさね。その反応は、キス済みってことがバレバレさ。…それで?」
ラビは目を輝かせ、更に身を乗り出してきた。
「それで…って?」
「え〜、言わなきゃわかんない?キスの次って言ったら、ひとつしか残って」
「こらっ」
言葉を遮るように、リナリーがポコッとラビの頭を叩いた。
「痛ってぇ〜。別に叩くことはないっしょ。しかも、グーで…」
ラビは両手で頭を押さながら、リナリーを見返す。
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