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最初から解っていたことだった。
彼と出会って、彼の運命を知ったあの瞬間から。
何れこんな日がやって来るということを、私は覚悟していたはず、だった。

それなのに…――。

私は、どうして悲しいの?
どうしてこんなに辛くて、苦しいの?
どうして、堰を切ったように涙が溢れてしまうんだろう。

泣かないと決めていた。
どんなことがあっても、何があっても、彼の前では、決して涙は見せないと。
あんなに自分自身と約束したのにね。

虚勢も、強がりも、今では跡形も無く崩れ去り、彼に1番見せたくなかった姿を、こうやって曝してしまっている。

「…泣くな」
「………」
「泣くなよ、リナリー」

温かな指先が、溢れ出る雫を優しく拭っていく。

「ラビ」

私は彼の名を、そっと口にする。
この唇で、何度もなぞった、その名前を。

「私たち、また、……会えるかな?」

私は顔を上げて、問い掛ける。
映った表情は――涙で滲み、はっきりとは見て取れなかったけれど、少し困ったような顔をしていた。

「さぁ、…どうかな。会えるかもしんねェし、会えないかもしれない。俺にも断定は出来ねェさ」

解ってる。
ラビは、会えるよ、なんて、容易く口にしない。
会おうよ、なんて、きっともっと言わない。

だから、喉元まで出かかった言葉を、私は必死に呑み込む。

『ずっと、傍に居たかった』

これから、新たな世界へ踏み出そうとしているのに?

『もっと、一緒に居たかった』

そんなこと、言えるはずない。

言えない台詞が、想いが、行き場を無くし昇華出来ずに、胸の奥で騒いでいる。

「…リナリー」

そんな私の心中を察してか、ラビはゆっくりと口を開いた。

「俺はエクソシストになって良かったと思ってる。確かに任務は死ぬ程大変だったこともあった。…いや、実際、何度か死にかけたこともあったけどさ」

何かを思い出し、ラビは僅かばかり苦笑する。

「この教団で、“大切だ”って、胸張って言える仲間に出会えたから。アレンやユウ、クロちゃんやミランダ、それに科学班の奴らと。…そして、リナリー、お前に」
「わた…し…?」
「あぁ」

小さく頷いて、ラビは言う。

「ブックマンの血を受け継ぐヤツが、こんなことを思ったりしちゃ、本来はいけないのかもしんねェけど」

ブックマンは時代の狭間に隠れた裏歴史を記録する存在。
何色にも染まらず、何者にも干渉しない、時の傍観者。
だから自分には、心は必要ないのだと。
感情は要らないのだと。

呟いた彼の姿は、何処か悲しく淋しげだったのを、よく覚えてる。


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