「…あの、此処はおじさんの家では無く、僕の家なんですけどね」
「ファイヤーエンブレムは良くて、何で俺はダメなんだ?」
「貴方以外の他の人は、良いんです」
「それ、贔屓だろ。狡ィぞ」
「他の人には害が無いから…」
「まるで人を害虫みたいに言いやがって」

クスクスと直ぐ傍から小さな笑い声が聞こえてきた。二人分の声。ファイヤーエンブレムと斎藤さんの。

「面白いコンビよね、ホントに貴方たちって」

それは褒められているのか、けなされているのか。たとえ前者であっても、決して嬉しくはないのだが…。

「憎らしいほど仲の良い二人は放っておいて、斎藤サン、私たちはさっさとあっちに行きましょう」
「憎らしいほど仲の良い…って、何なんですかっ!?こんなおじさんとペアにしないで頂きたい!」
「それはこっちの台詞だっつーの」

僕とおじさんの言葉を半ば無視して、ファイヤーエンブレムは斎藤さんを案内しながら、リビングへと行ってしまった。

「………」
「………」

何だかいたたまれない空気が、僕等二人を包み込む。しばしの沈黙。
いつも雄弁なクセに、おじさんがこうやって何も話してこないのは珍しい。
耐えられず先に音を上げたのは、僕の方だった。

「…どうして黙ってたんですか、今日のこと」

ファイヤーエンブレムから先程、こっそり教えて貰った。これはおじさんに口止めされてることだから決して口外しないで、と、そう念を押されて。
今回の、突然のオフも、おじさんの計らいによるものだという。
僕がずっと働き詰めだから、たまには休暇を取らせてあげて欲しい、と。緊急召集が掛かったら、僕の分までポイントを稼ぐから、と。おじさんがロイズさんに直談判したらしい。
余りにおじさんが引き下がらないから、ロイズさんは仕方なく、申し出を承諾したらしい。

「そりゃ、お前に事前に言っちまったら、サプライズの意味が無くなっちまうだろ?それにお前、こうでもしなきゃ、バースデーパーティーなんてやらしてくれねぇだろうしな」
「そんなの、当たり前でしょ」

だって、自分の誕生日に意味なんてないと、ずっと思ってきたのだから。

「だからだよ」

僕の前まで歩み寄ると、おじさんはニカッと笑って、ガシガシ少々乱暴に頭を撫でてきた。

「お前にはさ、幼少時代にあんまり味わえなかったことを、今からでも良いから体験して欲しいかったんだよ。今日のお前の誕生日も、体験して欲しかった中の一つ、っつう訳だ」
「………」
「誕生日ってさ、皆で祝って貰った方が楽しいし、嬉しいだろ。その感覚をお前に…」
「………」
「色んなものを見知って、感じて欲しいんだ、お前には。世界はこんなに素敵なモンで溢れてる、ということを知って欲しい。両親の復讐の為だけに生きる人生なんて、そんなの、辛過ぎるだろ」
「貴方って本当に、ドが付くほどのお節介ですね」
「それはよく言われるな」
「……何でそこまで、執拗に、僕に構うんですか?僕と貴方は、ビジネスパートナーみたいなモノでしょう?」

テレビの前で、皆の前で、バディという役割をそれなりに演じてれば、構わないとさえ僕は思ってしまうのに。

「それは違うぞ」

そう言って、おじさんは首を横に振る。


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