辺りが夕闇に染まり出すと、あらゆる場所の電灯の光が落とされる。そして、その代わりに、様々な場所に置かれたジャックランタンの中に、滔々と炎が燈されるのだ。

そう、そんな今宵は――。


その日、祓魔塾も無く自室のベッドで、以前に買ったコミックを読みつつ、ダラダラと過ごしていた時だった。

「兄さん、もう帰ってるよね?」

がちゃりと扉を開けた雪男が、そう尋ねながら、室内へと入ってきた。

「勿論、帰ってるけどよ。――って、お前、何だよ、それ…」

それだけ言って、俺はしばし言葉を失う。
だって、雪男の今している格好が何とも言いようのない、奇抜な出で立ちだったからだ。
大袈裟な立襟のマントに、細かい刺繍の施された黒いスーツ。まるで、何かのアニメの登場人物のような…。これ、って、軍服なのか?でも、時折、雪男の口元からちらりと見える鋭い歯からして、軍人の格好をしてる訳ではないような、気がする。
なんて…。
そんなことはどうでもいいんだって…っ。

「ど、ど、どうしたんだよ、その格好…っ!?」
「……やっぱり、変かな?」
「いや、変じゃない。全然、変じゃねェけどよ…っ」

むしろ、雪男の雰囲気にピッタリで、至極似合ってはいるが…。って、だから、そうじゃなくて。
上手く言葉にならなくて、ただ口をパクパク動かしてるだけの俺に、察しの良い弟が問い掛けてくる。

「どうして僕がこんな格好をしてるのか、気になるの?」

俺は夢中に、コクコクと首を縦に振った。

「今日はハロウィンだからね」
「ハロウィン?何だよ、それ」

未だ状況が飲み込めない俺は、訝しげに相手を見つめる。
すると、雪男から深い溜め息が漏れ出した。もしかして、俺、呆れられているのか?

「兄さんは、ハロウィンも知らないの?…全く、祓魔師になる為の知識以外にも、兄さんには、教えなきゃならない事が沢山有りそうだね」

そう言って雪男は、再び深い溜め息を吐いた。

「しょうがねェだろ、知らねェモンは、知らねェんだからよ」
「ハロウィン(HeIIoween/10月31日)は、キリスト教の諸聖人の祝日「万聖節」(All Hallo /11月1日)の前夜祭(All Hallo Eve)で、収穫への感謝とともに悪魔払いをするお祭りでね…」
「…だぁ、そういう難しい話は良いんだよ。簡単に、俺にも分かるように、かい摘まんで教えろよ」

起源などを細々教えられても、正直、俺の頭が着いていけない。

「…全く、しょうがないな」

呆れ顔をしつつも、雪男はハロウィンが何たるかを、俺の頭でも分かるように、丁寧に教えてくれた。


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