Main | ナノ




1


「弘人ただいまぁー。いいもの貰ってきたよ」

紙袋を抱き、嬉しそうに持ってくる大河。
一瞬何だろうと期待を寄せたが、紙袋の大きさを見てその期待ははかなく散った。

あー、またか……。
どうか俺の予想がはずれますように。

「じゃーん!」

やっぱり……。
大河が手に持ってるのは、白や黒のレースがたくさんついているメイド服だった。

「何がいいものだよ。いつもいつも俺に着させやがって!」

そう、こいつはコスプレが趣味でいつも俺に着させてくる。
自分で着ればいいじゃん、と言うと俺が着てそれを見るのがいいんだと。

意味わかんねー。

「これはな、いつもの安物なんかじゃなく特別なやつなんだ!」
「は?」
「このメイド服は日本にたった5着しかないんだ。それを俺の知り合いが特別に譲ってくれたんだよ!」

俺にとってはそんなことどうでもいい。
目を輝かせて熱く語っているけど、着る気はさらさらない。

「てかメイド服くれる知り合いってどんなだよ」
「そんなことはいいからさ、着て!お願い!」
「やだねー。今までの経験からして、ろくなことないし」

今まで大河があまりにもお願いしてくるから、しょうがなく着たことが何回もあった。
だけど全部恥ずかしいことをさせられ、いい思い出なんて全くない。
思い出すだけで腹がたつ。
「じゃあ、こういうのはどう?」

ポンとわざとらしく手を打ち、聞いてきた。

「なに?」
「弘人が欲しいっていってた財布を買ってやるよ」

物で釣ろうってわけか。
その手にはのらないぞ――と言いたいが、あの財布欲しいしなぁ。
てかそこまでして着て欲しいのかよ。

……よし、釣られてやろう!

「いいよ。でも着るだけだからな」
「わかったわかった。あ、袋にはいってるやつ全部着てな」

ああ、とだけ返事をし俺は紙袋を持って部屋をでた。

prev next

-1-