Main | ナノ




3


それは去年の4月……ちょうど1年前に遡る――。


******


「拓真! わりぃんだけど、コレ資料室に置いてきてくんねーかな?」
「え? いいけど……資料室ってどこ?」
「この校舎の一番端にあるから! ちょっと俺急いでてさッ……んじゃよろしく」

息を切らして去っていったのは高校にはいってから初めてできた友達、達也。
サッカーのユニホームを着ているから、多分部活に遅れそうだったんだろう。
俺は部活にはいってないから今帰ろうとしてたところ。
どーせこの山積みになった本を置くだけだし、さっさとやって帰ろう。
えーっと……廊下をずっと進んでいけば分かるよね!

それにしても高校って広いよなぁ。
入学して少し経ったけど、まだどこになにがあるのかいまいち把握できてない。物忘れが激しい俺はこの高校3年間で覚えられるのかってぐらい。
……いくら何でもそれはないと思うけどね、多分。

「…………」

何かこの辺薄暗くて不気味。
さっきまでは普通に明るかったし……日当たり悪いのかな。
ここで人が出てきたらちょっとビックリするかも。

「……んぐッ、ぁっ」

……ん?
何か今、人の声が聞こえたような……。
気のせいかな。

「やめ、て、くださ……ぁぁあッ!」

やっぱり誰かいる!
ちょっと怖いなぁ……でも気になる。
恐怖もあったけど好奇心が勝って、俺は意を決して声がするほうに向かう。
ドアに手をかけてゆっくり音をたてないように開けてみた。

「……ッ!?」

そこには裸で手と足を縛られている男がいた。
何ていうか、こう……M字開脚っていうのかな。
かなり際どい格好で。

暗くてよく見えないけど、縛られているほうは多分隣のクラスのやつだと思う。達也と同じサッカー部で女子にもかなりモテてるらしい。
ベタな漫画にでてきそうな爽やか好青年って感じ。

そんで隣で楽しそうに笑ってるのは……城之内玲!?
え、見間違いかな。
……いや、でも確かに城之内だ。
違うクラスだけど入学当初から名前を知っている。
なにしろ圧倒的なオーラがあるからな。
知らない奴はいないと思う。

でもたまに廊下ですれ違う城之内とは違う気がする。もっとおしとやかで繊細なイメージだったんだけど、今目の前にいるのは勝ち誇ったような顔というか……いかにもサドって感じ。

どうしよう、もう離れたほうがいいよな。
だけど何か目が離せない。こんな光景見たことないからか胸がドキドキする。
でもこの2人に悪いよな……うん、早く行こう。
そう思ってドアを閉めようとしたとき。

「あっ!」

ドサドサドサッ

思わず手に持っていた本を落としてしまった。
やば、結構音したし気づかれちゃったかな。
冷や汗が頬をつたう。
勇気を振り絞って教室の方に目を向けると……

「……あ…」

目が合ってしまった。
するとツカツカとこちらに城之内が歩いてくる。
そして頭の中が真っ白になってる俺の腕を引っ張られて、ムリヤリ教室に連れ込まれた。

「ああああのッ! 俺何も見てませんから、ホントに! だからそのッ……」

もうテンパって自分が何言ってるかわからない。
ああ、どうしよう……もしかしたら俺殴られちゃうかも!

prev next

-3-