虹色の明日への番外編 | ナノ


色の明日へ
繋がる体温


 きん、と冷えた空気を思いきり吸い込めば、身体の奥底までが冷えていくように感じた。
 吐いた呼吸は真っ白に染まり、今にもチラチラと雪が舞いおちて来そうな、とある冬の日。
「今日は、さむいね」
「……(こくり)」
 手袋に包まれた手を擦り合わせながら歩く。
 背の高い小太郎を見上げれば、彼の鼻の頭も少しだけ赤くなっていた。
「お買いもの、付き合わせてごめんね、コタ兄」
「(……気にするな。己に出来ることなら、何でもする)」
 頭を撫でてくれた手は、予想以上にひんやりとしていて。思わず、離れていくその手をゆずかは掴んだ。
「……?(こてん)」
「手、つめたいから。あたためてあげる」
 両手で包み込むようにその手を握って、ほんのわずかに微笑めば、小太郎は何も言わずにされるがままになっていてくれた。
「(……不思議だ)」
「なにが?」
「(己には感情などない筈なのに、ゆずかといると、心が温かくなる気がする)」
 伝説の忍は、笑わなければ泣きもしない。怒ることも、楽しいと感じる心も捨て、ただ、忠実に任務をこなすだけの道具と化した。
「コタ兄は……、人間だよ」
「(……そう言ってくれるのは、ゆずかだけだ)」
「みんな、知らないんだよ。心がないわけじゃない、心をかくしてるだけなんだって」
 ひらり、高く掲げたゆずかの手のひらが、分厚い手袋に包まれているように。
 繊細な魂が、過酷な日常に傷つかぬように隠されているだけなのだと、ゆずかは言った。
「ちゃんと、あたたかいよ。コタ兄は」
 ゆずかの体温が、小太郎の手のひらと繋がって。ほんのりと熱を帯びはじめたそれを撫でる。
 小太郎が本当に道具であれば、機械のような人間であれば、この手はきっと温かくならない。ゆるり、戸惑うように、ゆずかの手を握り返してくれたりなんかしないだろう。
「(ゆずかのほうが、……ずっと温かい)」
「子供は、大人のひとより体温がたかいんだって」
「(……そうか)」
 そういう意味ではなかったのだが。薄く苦笑した小太郎は、握った手を少しだけ己のほうに引き寄せた。
「(……ならば、今日はずっと、繋いでいてくれ)」
「うん。いいよ」
 寒さを言い訳にして、このまま手を繋いで帰ろう。凍りつかせた心に、ほんの一滴、あたたかな雫が落ちたように。
 じんわりと震える心を、今しばらく感じていたいから。


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