捧げもの | ナノ

■ あたたかいそれは、君。


 ※名前変換なし。未開拓 いく様より頂戴しました。いく様宅の長編夢主ちゃんと、小太郎さんのお話です。転載等は厳禁です。


『…っくしゅッ』

朝の散歩中
冷たい風に吹かれて思わずくしゃみが出ると
並んで歩いていた小太郎が顔を覗き込んでくる。

「(寒いか?)」

『…だい、じょぶ…』

ずず、と鼻を啜ると
立ち止まった小太郎が自分のマフラーを陽向のマフラーの上から巻きつけた。
ピンクと黒でもこもこと二重に巻かれたマフラーで口元まで隠れてしまったが、おかげで先程より暖かい。

『ありがとう……でも、小太郎が…寒いよ?』

「(問題ない)」

『小太郎、は…寒いの……平気?』

「(苦手では、ない)」

再び歩き始めると、ひゅうっと強く吹いた風が小太郎の赤い髪を揺らす。

「(……ただ、こうして兜を着けていないと風の冷たさをより感じるものだなとは思う)」

歩きながら、手話でそう話す小太郎。
目元こそ髪で隠れてはいるが、小太郎は元の時代ではこうして人前で兜を外したままでいることなどなかったのだという。

『…………』

「(……どうした?)」

じぃっとこちらを見上げている陽向に気づき、コテンと首を傾げる小太郎。
何かを考えているような陽向だったが
なんでもない と首を振るとまたいつもどおり散歩を再開したのだった。


コン コン

『灯姉…』

『陽向?入っていいよ』

カチャ…
その日の昼間、仕事中の灯の部屋を訪ねてきた陽向。
灯が中へ促すと、きょろきょろと廊下を見渡して誰もいないことを確認してから部屋へ入り静かに扉を閉めた。

『…??どした?』

『えと、あのね…内緒の、お願い…が、あって』

陽向の珍しい行動に様子を見ていれば、まるで内緒話をするように灯の耳元へ顔を寄せてきた。
こしょこしょと耳打ちされたそれを聞き一瞬目を見開いた灯だったが、すぐに顔が綻ぶ。

『…初めはちょっと難しいかもしれないけど、大丈夫か?』

『うん、がんばる…』

『そっか。じゃあ後で一緒に買い物に行こうな』

ぎゅっと拳を握って意気込んでいる陽向に、灯がさらに目を細める。
きっと喜んでくれるだろうな と声をかけると、陽向も嬉しそうに微笑んだ。


ここ数日、陽向は灯の部屋によく篭るようになった。
勉強する時や食事の時間以外はほとんど灯の部屋で過ごしている。
最初は、自分の部屋でなく灯の部屋で勉強をするようになったのかと思ったのだが、どうも勉強ではないらしい。
小太郎は呼ばれない限り自室と書斎以外の部屋へ入ることはないので、陽向が灯の部屋で何をしているかはわからない。

「(…最近、主の部屋で何かしているのか?)」

いつもの散歩中ロンとハンナをドッグランで遊ばせている時にそう尋ねてみれば、陽向は少しだけ目を泳がせる。

『……えと…』

「………」

『……ひ…ひみつ、なの』

「(……そうか)」

ぽそりと呟いて、リードを弄りながら俯く陽向。
陽向が小太郎に隠し事をするのは珍しいことだったが、もちろん小太郎は無理に聞き出そうとはしない。
やはり少し気にはなるが、灯は承知の上だろうし心配することではないのだろう。

陽向の返答に小さく頷き、走り回るロン達を眺めていると
くいくい、と服の裾が引っ張られた。

「(?…どうした?)」

『あの、ね……今は、ひみつ、だけど…、終わったら…ちゃんと、言うから』

「…………」

『…も、すこし…だけ、待ってて…くれる?』

そう言っておずおずと見上げてくる陽向。
その表情は、シュンと眉が八の字に下げられている。
おそらく隠し事をしていることで、小太郎に嫌な思いをさせてしまっていると思ったのだろう。

「(…いくらでも、待つ。陽向の言いたい時に言えばいい)」

ぽんぽんと頭を撫でてそう伝えてやれば、陽向はホッとしたように表情を緩めた。


それから一週間後の朝。

カチャ…

『……こたろ』

朝の散歩に行く為、小太郎が玄関の外でロンとハンナにリードをつけて待っていると陽向がドアから出てきた。

「(準備、できたか)」

『うん……あ、あのね』

「(…どうした?)」

『あの……ひみつの、…出来たの』

そう言って後ろ手に何かを持っていた陽向が見せてきたのは、何やら黒くてふわふわした小さな袋のようなもの。
首に巻いているものと同じ生地のそれは、確か“毛糸”という素材だったか。

しかしその黒いものが何なのかわからずに首を傾げる小太郎。

『小太郎、ちょっと…しゃがんで?』

陽向にそう言われてスッとその場へしゃがみ込むと、そのふわふわの布を頭に被せられた。
ちょうどすっぽりと小太郎の頭がおさまるそれは、思った以上に肌触りが心地良い。
そして何より、ふわりとした暖かさが頭を包み込んだのがわかった。

『毛糸のぼうし…なの。灯姉に…教えてもらって、ね……作ったの』

「(!…陽向が、これを作ったのか?)」

『編み物…はじめて、で…あんまり、うまく、できなくて……いっぱい…やり直したから、時間…かかっちゃったの』

「…………」

『でも、似合って…よかった……こたろ、これで…寒くない?』

そう言って、様子を伺うように少し首を傾ける陽向。
小太郎は陽向のその両手を取り、ひとまわり大きな自分の手で包み込む。

「(……とても……とても、あたたかい)」

『…ほんと?』

「(ああ、…ありがとう、陽向)」

そう伝えると、小太郎の目の前でふわりと零れる笑顔。
そうして陽向が
まるで自分のことのように喜ぶから
小太郎も自然と自分の口元が緩むのがわかった。

『じゃあ……お散歩、行こ?』

微笑み合った2人は、2匹を連れていつものように散歩へと歩き出す。
冷たい風が吹いていたけれど
いつもより ずっとずっと
あたたかい朝だった


その笑顔が その心が

己の身も心も

すべてを包み込む

そっと触れた

小さな手から 伝わる体温

けれど わかっている

“あたたかい”のは

君 そのものだと


2013.3.8/相互記念
【一木一草】リト様へ捧げます^^
これからもどうぞ宜しくお願い致します!


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