ゆめのあとさき | ナノ


 35


 翌日。政宗と幸村の朝の手合わせを見学してから、五葉達五人は奥州の城下町におりてきていた。
「賑やかな町ですね」
 甲斐とはまた違った賑やかさに包まれる町並みは、とても平和そうで。昨日まで異変に蝕まれていたとは思えぬほどだった。
「Hum、普段はもっと活気があるんだがな」
「然し、民達も落ち着いた様子で何よりですな」
「ああ。もっと後にひくかと思ったが、流石は竜の民だ。安心したぜ」
 政宗も片倉も、ホッとしたように言葉を交わす。その優しげな声音は、二人が奥州の民を大事に思っている何よりの証拠なのだろう。
「佐助!ずんだ餅とは甘味か!?」
「そうそう。枝豆で出来た餡をまぶした餅のことだよ、幸村」
「五葉ちゃん、よく知ってるね?」
「私のいた世界にもあったからね。仙台の名産だったし」
「Hey 五葉、仙台ってのは奥州のことか?」
「そうだよ。宮城県仙台市。懐かしいな、何度か旅行したっけ……」
「お前がいた世界じゃ、呼び名も違うのか」
「いえ、昔は、同じように奥州と呼んでいたそうですよ」
「ねえ五葉ちゃん、甲斐はなんて呼ばれてたの?」
「あー……、山梨県?上田は長野県だったかな」
 それぞれと会話を続けながら、ずんだ餅を買いに走る幸村を見守る。正直地理には詳しくないので、佐助の質問には汗が出た。
「五葉殿!共にこちらで食しませぬか!」
「じゃ、ご一緒しようかな。政宗は?」
「ah、そうだな。まずは腹ごしらえでもしとくか。小十郎、行くぞ」
「お供いたします」
「ちょっと旦那ぁ、朝からあんまり甘味は……」
 早速飛び出す佐助の小言を右から左に聞き流し、手招きする幸村のもとに三人は向かったのだった。

「うん、ちゃんと枝豆の食感も残ってるし、甘くて美味しい」
「まっこと美味でござる!!」
「本当だ。さっぱりしてていいね、これ」
 並んで座った甲斐の三人が、ずんだ餅を片手に笑う。
 その様子を、向かいに座る奥州の二人が眺めて嬉しそうにしていた。
「そういえば、五葉。お前の刀は、ずっとあのままにしておくのか」
「あのまま、ですか?」
「ああ。抜き身のままじゃ、持ち歩けないだろう」
 布にくるんでますけど、と言えば、片倉は呆れたようにため息を吐いた。
「あのな……、刀ってのは人と同じだ。収まるところにおさまるべきなんだよ。いつまでも抜き身のままで置いておくもんじゃねえ」
「はあ。すみません」
「折角、神から賜った刀なんだ、大事にしてやれ」
 ずず、と茶を啜った片倉の言葉を、ふむ、と考えてみる。確かに、両手に抱えて歩くのにも無理があるかと思ってきたところだったし。なら、鞘でも見繕ってみるか、と五葉がひとり思いを巡らせていると。
「OK。なら、俺に任せな」
「政宗?」
「五葉の刀に合う鞘を、俺がPresentしてやる」
「え……っ!い、いやいいよ、悪いし」
「いいんだよ。This is but a small token of my thanks.(ほんの礼のしるしだ)」
「……ぷれぜんと……」
「どうしたの、旦那?」
「いや……、何でもないのだ」
 にっ、と男らしく笑った政宗は、どんなのがいいかと五葉に重ねて問いかけてきた。
「じゃあ、背中に背負える感じにしてくれると助かるかな」
「Hum、紋様とかはどうする?」
「そういうのはよくわからないから……、政宗のセンスに任せるよ」
「OK、I hope you'll like it.(楽しみにしとけ)小十郎、黒脛巾に命じて、五葉の刀を鞘師のところに持っていっておいてくれ」
「御意」
 軽く頷いた片倉は、湯呑みを置いて店から離れていった。恐らく、近くに控えている忍に政宗の言付けを伝えに行ったのだろう。
「ありがとう、政宗」
「これぐらいしか今はしてやれねぇからな」
 十分だよ、と応えながら、五葉がまだ見ぬ刀の鞘に思いを馳せていると。
「……?誰か来るね」
 どどどっ、と、こちらに向かってくる足音が耳に聴こえてきたのだった。


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