またあいましょうあわせましょう (黒バス・青黒)
『分かり合えてるただそれだけが 二人をつなぐ糸でした (作者不詳) 』
そのコートの中では君との境界線は融けていました。
欲しい、と思った時にはもうこの手の中にボールは在りました。
誰に、と考える間も要らないくらい君はその先に居ました。
俺は只、それを受けとり決めれば良かったのです。
僕は只、速く確実に君に届ければ良かったのです。
そのコートの中が全てでした。
吸った空気を吐き出すように当たり前の事でした。
吐き出した空気を吸いこむように当然の事でした。
『君』がいる事が自然でした。
『君』がバスケが好きな事が当然でした。
それは事実。思い込みでもなく周囲も認める真実だったのです。
その事実を忘れてしまったのは俺でした。
パスを貰わなくても相手からボールを奪えば良くなったからです。
戦意を喪った相手からは簡単に奪えましたから。
段々俺は君を必要としなくなりました。
その事実を忘れられたのを認めたくないのは僕でした。
パスが通り君が決めた後見せるあの笑顔が大事だったからです。
だけど君は僕からのパスが来る前に相手から奪えました。
僕は段々君にパスを回さなくなりました。回す必要がないからです。
あんなに融け合っていた境界線が段々ハッキリしてきました。
いつも遅くまでくたくたになりながら練習していました。
その帰り道に色んな話をしました。
俺が知らない世界にいた君の話は判らない事が多かったけど聞き飽きる事はありませんでした。
僕が知らない世界にいた君は僕の拙い話を面白そうに聞いてくれていました。
君と半分こした肉まんとピザまんが美味しかったこと。
チャレンジした新作のジュースは好みが分かれたこと。
部室棟を出てすぐにある桜の花びらが鼻の上に落ちて笑い転げたこと。
帰り道の夜風に香る花の香りが好きだと言ったら君がジャスミンだと調べてくれたこと。
夏の帰りに半分こにして食べたアイスが美味しかったこと。
秋の帰り道に降ってくるように香る花はキンモクセイだと教えてくれたこと。
冬の帰り道に自然に繋いだ手が温かったこと。
初めて重ねた唇が荒れててカサカサだったこと。
それらは忘れたくない大切な事なのに、あの事実と一緒に俺は忘れてしまいました。
それらは忘れられない大切な事なのに、あの事実と一緒に忘れられた事を僕は認めざるを得ませんでした。
あの時、互いの拳を重ねあえるままだったら。
俺はこのコートの中で戸惑う事はなかったのかもしれません。
君以上に思うようなパスをくれる人はいないからです。君以上に拳を重ねたい人はいないからです。
何より君ではありません。
そうして俺は自分が忘れてしまった大切な事を想い出したのです。
そうしてくっきり引かれた境界線に気がついたのです。
僕はこのコートの中で戸惑う事はなかったのかもしれません。
僕を認めてくれ、共に高みに挑む仲間は出来ました。
だが君ではありません。
あのコートの中のように境界線が融けてしまいかのように理解しあえないのです。
俺はチームメイトが居てもコートに独り。
そしてコートの外の世界は色褪せて見えるのです。
僕は信頼しあえる仲間が出来たけど。
あの帰り道ほど世界がキレイに感じないのです。
俺の、
世界を
僕の
また変えたのは「君」でした。
君が選んだ新しい仲間達は俺を敗りました。
僕が選んだ新しい仲間達が君を敗りました。
その時俺は想いました。また君とのバスケがしたい、と。
その時僕は想いました。また君とバスケがしたい、と。
そうして呼び出されたあの夜。
あの頃のように君とした練習が俺の、僕の胸を暖めます。
あの頃のように一番一緒に居るワケではないけれど。
コートの中で境界線が融け合う事はもうないだろうけど。
今度はコートの中で感覚の全てをぶつけ合う事が出来る。
それは新しい世界として自分達を魅了するでしょう。
だから、今度こそ忘れないようにしないと。
さぁ、次はいつ君と試合が出来るんだろうか?
ワクワクした気持ちのままに差し出した手を君が当たり前のように握ってくれました。
また、あいましょうコートの中で。
また、かさねましょうこれからの時間を。
◇ ◇ ◇
自分の中の黒子と青峰を纏めていたらこんな風になりました。
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