bocca chiusa
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探り合い


 唇に、ヒソカの薄い唇が一瞬貼り付き、離れた。
 どうしてこんなことになったんだっけ。ま、今更どうでもいいな。そんな無反応なオレに痺れを切らしたのか、ヒソカが耳元に口を寄せた。

「キミの6番の刺青ってどこにあるの?教えてよ、シャルナーク♣」
「自分で探せば?」

 投げやりに答えたものの、こんな答えじゃ実質イエスの意味じゃん。軽く後悔……いや、嘘だな。好奇心の方が先。こいつがどんな奴か知りたい、そんな感じの欲求。たぶん性欲とそう大差ない。

 押し付けられた枕は妙に柔らかかった。ベッドに沈み込む自分の身体。のしかかるヒソカにアンテナを刺すのはたやすいけれど……たぶんヒソカもわかってる。だからこんなに無警戒なんだろう。ちょっとは悔しいが、逆に面白かったりもして。

「だいたい、なんでオレにこんなことするの?」
「そういえばキミのこと、あまり良く知らないなって思ってさ♦」

 それだけかい、とムッときて、それならオレも同じ穴のムジナだなと思い直した。ちょっとからかってやるか。

「あんまり調子乗ってると刺すよ、ヒソカ」
「え、挿すのはボクなんだけど?」

 お互い、たぶん同じ意味の笑みを交わした。なるほど、悪くないね。

「もっと抵抗されるかと思ったよ♣」
「してもいいけど、別にどうでもいいし」

 半分は本心。どうせ力では敵わない。そうか、それなら。

「抵抗するよりは、される方が面白いだろ?ヒソカ」

 言うなり、ヒソカの髪をがしっと掴んで引き寄せた。唇を当てて、深く吸う、するとヒソカが一瞬戸惑ったのがわかって、してやったりとほくそ笑む。そのまま口を開けて舌を絡めると、ヒソカの口も、なんとはなしに柔らかく開いて……というところで、オレはこらえきれずに吹き出してしまう。もう少し楽しんでも良かったんだけど。

「もっと抵抗されるかと思ったよ、あはは」

 同じセリフを投げつけてやると、ヒソカは意外にもニヤリと笑った。

「ふうん。キミって思ったよりも面白いんだね♠」

 やおらヒソカの長い指がオレの髪を梳いて、首筋に流れ、胸元をすべり、ベルトを緩め、上着を捲り上げ、その間に抜け目ない唇が、むき出しの肩そして二の腕に落ちてゆく。内心ため息が出て……うーん、どうしよっかなー。やられっぱなしも癪ではあるけど、オレがまたも笑いをこらえてるのもとっくに気付かれてるだろうし、むしろ既にどっちが先に諦めるかの根比べの様相を呈してきてるし。

「ヒソカ、ちょっと待った」
「なに?」
「オレを脱がせて無茶苦茶しようってのに、自分は服着たままなの?ちょっとは気を使いなよ」

 ヒソカは忍び笑いをして、オレの頬をつるりと撫でた。

「無茶苦茶しようなんて思ってないケド?そういうの、ボクの美学には反するな♣」
「おんなじことだろ」
「じゃ、ボクにアンテナを刺しなよ。キミのされたいようにボクを操ればいい♥」
「そんなことしても面白くないだろ?わざわざ“押し倒されてやってる”ってのに」

 もうお互い爆笑寸前、ムードも何もあったもんじゃない。ま、そもそも最初からムードなんてものがあったかどうかは甚だ疑問だけど。

「……キミには、まいったな♣」

 不意に身体を起こして、ヒソカは勢い良く上衣を脱いだ。乱暴に床へ投げ捨てて、再びオレに絡みつく。今度は肌と肌が直接触れた。

 熱い。

「これでいい?シャルナーク」

 耳元に甘く流れ込む声。あえて応えない。それが答え。

「ついでに教えとくよ、ボクの4番の蜘蛛は背中にあるんだ♥今は見えないだろうケドね」
「知ってたよ。そんなこと」

 もう後戻りをする気もない。ヒソカの背中に手を回し、蜘蛛のいるあたりを軽く引っ掻く。

「ちょっと、やめてくれよ♠」

 なぜかヒソカは急に身をよじり、オレの横に寝転がった。顔を近づけ、探るようにオレを見つめる。そして両手でオレの頬を挟み込んで、とても……とてもなめらかなキス。正直に言うと、かなり酔った。これはヤバいな。なんとかしないと。

 だから離れる寸前、こっちから喰いつく。
 体勢逆転。

 今度はオレがヒソカに覆いかぶさって、唇、頬、鼻先、額、耳元……顔のありとあらゆるところに唇を押し当てた。かすかな甘い香りがして、そうかこれはメイクの匂いかと一人納得する。

「ヒソカ」
「ん?」
「次にオレを襲うときは、すっぴんで来なよ。頼むから」

 ヒソカはオレの下になったまま、目をぱちくりさせて、それからくすくす笑い出した。それがオレにも伝染して、ふたりでひとしきり笑いあう。なんだろうね、この変な時間は?それは奇妙で、そしてどうにも可笑しくって。こんな一時、今まで出会った誰とも過ごしたことがない。今日のところは、完敗だな。オレは上になるのをすっぱりやめて、ヒソカの横に身を投げ出した。

「シャル?」
「オレの負け。好きにしていいよ、ヒソカ」
「勝ち負けなんか、あったかなぁ?」

 そう言いつつも、ヒソカは元通りオレを下敷きにして、身体の隅々まで指、そして唇を這わせ始めた。せいぜいオレを酔わせてくれよ。そうヒソカに囁けば、了解、と返される。

 蜘蛛の位置がバレるのも、もう数分とかからない。
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(c)ソト@bocca chiusa

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