心の中だけで呟いていたはずの言葉が、ついうっかり口から零れ落ちてしまった。

「…」

――ん？

ぽぽぽっと葵の頬が紅く染まっていく。

「葵…？」

まるで茹蛸のように真っ赤になった彼に驚き、目を瞬く俺。じっと見つめられていることに気がついた葵は、顔を両手で覆い隠した。

「こ、これは、違うから…」
「違うって…」
「いきなり変なこと言う吉海さんのせいだから」

別に変なことを言ったつもりはない。もしかして褒められ慣れてないのだろうか。こんなに綺麗な外見をしているのに。

「かわいいって言われたことない？」
「あるわけないでしょ…俺一応男なんだし…」

火照った頬を冷ましているのか、ぱたぱたと両手で顔を仰いでいる。

…なんだ。年相応に可愛いとこあるじゃないか。

「わっ、え、な…なに」

床に膝をついたままの彼の身体を抱き上げ、先程と同じように自らの脚の上に座らせた。

「吉海さ…」

後頭部を掴んで引き寄せ口付けると、葵は驚いて目を瞠る。が、しばらくするとおずおずとキスに応えてくれた。

「んむ、ぅ…んっ、ん、んぁ、あ」
「…あおい」
「はぁ…っん、よしみ、さん…」

とろとろに蕩けた顔で名前を呼ばれ、俺は小さく微笑む。多分、いや絶対。攻められると弱いから、今まで自分主導で事を進めようとしていたんだろう。

「お前、かわいいな」
「だ、だから、そういうの言わないで…って、あぁッ！」

下着の上から彼の股間を撫でると、一層大きな声が漏れた。そのままぐしゅぐしゅと布越しに扱いてやる。

「濡れてる」
「あっあっ、あっ…や、やだ…っ」
「俺の舐めてるときから、ずっとこんなだった？」
「ちがう、も…っなんで、吉海さん、急にこんな強気…っ！男初めてのくせに…！」
「なんかもう吹っ切れた」

こんなかわいいとこ見せられたら、さすがの俺も男心に火がつくというか。

「脱がせていい？」
「だ、だめ！！」
「でもこのままだとパンツ汚れるぞ」
「俺が脱ぎたいときに脱ぐから、吉海さんはじっとしてて」
「脱ぎたいときに脱ぐって…」
「だって」

だって？

「これ脱いだら、本当に俺が男ってわかっちゃうから…そしたら吉海さん、引くかもしれないじゃん…」
「引かない」

考えるよりも前に答えが出ていた。

「え」
「セックスは二人で気持ちよくなるもの、なんだろ」

ほんの少し前に彼が言った台詞を繰り返す。俺に当てはまる言葉なら、当然葵にも言えることだ。

「…そ、そうだけど…」
「引かないから」

全部見たい。

耳元に顔を寄せて囁くと、葵はしばらく逡巡した後小さく頷いた。

＊

「あ…っ、あっ、ぁ、ん…」
「…痛いか？」

ローションで濡れたそこをゆっくりと指でかき回しながら尋ねる。漏れ出る声が少し苦しそうだったからだ。

「へ…き、もう少し、お腹のとこの、そこ、こすって…」

言われた通りの場所を探り探り擦ってみると、葵の身体がびくんと大きく跳ねた。

「ん…ッ！！」
「ここ？」
「ひうっ、あ、そこ、そこすき…っ」

俺の膝に跨ったまま仰け反るものだから、必然的に目の前に乳首が差し出されるような状態になる。条件反射でそれを唇で食むと、葵はふるふると首を振って抵抗した。

「両方は…っ、だめ、ぇ」
「…」

だめと言うわりにしっかりと俺の頭を押さえつけているあたり、ちゃんと気持ちよくしてやれていることがわかって安心する。

「もう、もういい、もう入れて」
「え、もう？」
「大丈夫だから…吉海さんの、欲しい…」

さす、とまた白い手のひらで股間を撫でられて背筋にぞわぞわとしたものが走った。結構、いやかなり。俺はこの状況に興奮しているようだ。モラルだ倫理だなどと騒いでおいて、結局性欲には抗えない自らに少しへこんだ。

「痛かったら言ってくれ」
「ん…」

ゴムを装着して彼の腰を掴む。細すぎて折れやしないか心配になるが、今そんなことを懸念していても何も始まらない。

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