▼ 03
気がつけば夢中になってその口内をかき回していた。俺の両手はしっかりと彼の頭を押さえ、葵もそれに応えるように俺の頭をかき抱いている。ちゅくちゅくと唾液の混ざる音がどこか遠くで聞こえた。
「ん、ン…」
唇を離せば、物足りなそうに鼻を鳴らす葵。…なんてエロい声を出すんだ。下半身に熱が集まるのが分かった。
「はぁ…」
「吉海さん、キスうますぎですよ…」
彼はそのまま息の乱れた俺にもたれかかってくる。その顔は既に情欲に蕩けてしまっていた。きっと、俺も、同じ。
「…そう?」
「もう腰くだけそう。超気持ちよかった」
「それは良かった」
気持ち悪くなかった?と心配そうに尋ねられ、首を横に振る。
気持ち悪くなんてない。むしろその真逆だ。許されるならばずっと口付けていたいとさえ思った。
「じゃあ、続き…しましょうか」
「あぁ。俺はどうすれば?」
「えっと…まず、服、脱がして。吉海さんの好きなようにしてくれていいんで」
好きなようにと言われると逆に難しい。セックスするのに男も女も変わりない、ということであれば、この後は。
「んっ」
軽く首や鎖骨に吸い付きながら、シャツのボタンを外していく。葵は俺の肩に手を置き、その様子を興奮したようにじっと眺めていた。
「綺麗だ」
目の前にさらけ出される彼の肌。きめ細やかな白い皮膚の上に、淡い桃色をした乳首が見える。すでに二つのその飾りは芯をもって上を向いていた。
「ふふ、そうかなぁ。自分のだから綺麗とか考えたことないや」
「触っても、大丈夫か」
「うん…っていうか、触って欲しい…」
はにかむ葵。心臓が音を立てる。純情な少年のような笑みは、今俺たちがしようとしている行為とは正反対で。それがまた背徳となって興奮を助長した。
「ああっ」
片手で彼の身体を支えながら、もう片方の手で右の乳首に触れる。
「あっ、吉海さ…んっ、もっと、強くして」
「こう?」
「はぁぁっん!」
人差し指と親指の間に挟み込み、きゅっと力を入れる。葵の口からは悩ましげな吐息が漏れた。
コリコリとした硬い感触を指先で楽しむ。力を込めて挟み込むのは見ているこちら側としては痛そうだが、葵はビクビク震えながら感じていた。少々痛い方がイイらしい。
「んっあ、あっ、ふ…ん、あぁっ」
「乳首、気持ちいい?」
「うん、き、きもちい…あっ、なんか、びりびりする…」
「ちょっと舐めてみても大丈夫?」
「あ、うう…」
平べったい胸に頬を擦り付け、彼のとろけた表情を窺う。期待するような色がゆらゆらとその瞳の中に滲んでいるのが分かり、聞かなくても答えがわかってしまった。
ちゅ、と軽く唇を押し当てる。男の乳首なんて舐めたことはないし、これから先も舐めることはないと思っていたが…。普通に愛撫するだけで大丈夫、だよな。
「どうするのが、感じる?」
「え…」
「噛むのと、舐めるのと…あと、こう」
「ひ…んっ、あ、だめ!」
尖らせた舌先で突起を押し潰す。一層大きな声が上がって、ああなるほどこれかと要領を得た。そのまま何も言わずにぐりぐりと好き勝手に舐る。
「あ、あ、よしみさ…!ん、ふぁぁっ、あっん、んん…」
肩に置かれた手に力がこもった。俺も俺で結構興奮しているらしく、勝手に吐息が漏れる。はぁ、と愛撫の合間に掠れた息を吐き出すと、葵はそれにも反応して身を捩った。
「そっちばっか、やだ…んっ、こっちも、おねがい」
片方ばかりを弄っていたのが気に食わないのか、もう片方の乳首を差し出してくる。赤い頬で目を伏せるその姿はとても可愛らしく扇情的だった。まだ子どもと呼べる年齢なのに、一体この色気はどこから出てくるのか。
「俺の首に両腕回して。ん、そう」
「…?」
「支えてる手、どけるから。両方同時に弄ってほしいだろう?」
コクン、と頷く。しっかり掴まってろよと囁き、目の前で誘うピンク色の飾りに意識を集中させた。
「んぁぁっ、ふ、う、ンッ、あっ!」
耳に響く嬌声が心地いい。夢中になって舌を這わせれば、汗の味がした。すでに彼の胸は俺の唾液でてらてらと淫猥な光を放っている。とてもいい。興奮する。じゅっと音を立てて吸った。
「吉海さん…あっ、ん、ちくび、すきなんですか…?」
「別に普通だと思うけど…」
「でも、ふふっ、ん、そうしてると…赤ちゃんみたい」
「…」
三十路の男を捕まえて赤ちゃんとは何事だ。むっとして軽く歯を立てる。
「ん――っ、だめ!それやめてっ」
「赤ちゃんは、こんなことしない」
「そ、ですけど…っんう!」
「こんなやらしい乳首をしてる君が悪い」
「やぁっ、よしみさ、もう、もう…あぁっ!」
カリ、と芯を持った突起を犬歯で刺激すれば、葵は俺の頭を掻き抱いて啼いた。体が密着したせいで互いの性器が擦れる。え、と驚いたような声が上がった。
「えと、吉海さん…俺で、ちゃんと、勃ったんだ…」
「…そんなに驚くことか?」
「驚くっていうか、嬉しい。良かった。中止になっちゃったらどうしようかと」
「念のために聞くが、俺が勃たなかった場合はどうしてたんだ」
「うーん…これからじっくり開発しましょうねって感じ」
なんだ。どっちにしたって君からは逃れられないんじゃないか。
「そうですよ。一目見たときから決めてたんだから…俺はこの人に抱かれようって」
ふ、と何故だか笑ってしまう。いつの間に俺は目を付けられていたんだろう。全く気が付かないところで彼はずっとこちらを見ていて、そして本当に今こうして行為に及ぼうとしている。
「何もかも君の思惑通りってことか」
「…そうでも、ない、かな」
「え?」
予想よりずっと気持ちがいい、とうっとり呟く彼。そして首筋を舐められた。熱い舌の感触にぞわぞわと全身が粟立つ。
自分の中にある知らないスイッチを探られているような感覚。奥底で燻っていた熱情が露になっていくのが分かった。
首を舐めていた舌が徐々に上がってくる。情欲に蕩けた瞳がすぐ近くで見えて、気付けば唇を重ねていた。多分きっと、自分も彼と同じくらいやらしい顔をしているのだろう。
「んっ、ふ…んっんっ…」
ぴちゃぴちゃと音が鳴るのも構わず夢中で貪る。口の中に溜まった唾液を送り込むと、葵は素直にそれを飲み込んだ。喉の奥からくぐもった声が聞こえ、それにまた興奮する。
…この少年は、俺がどうすれば喜ぶかということを全て分かっている。出会ってまだ数時間だというのに、彼の思う通りに翻弄されているのだ。
このままでは年上の威厳が、とちっぽけなプライドが思考の片隅で渦巻いた。何とかして自分のもとに主導権を手繰り寄せようとして、キスをしながら腰に触れる。葵はビクリと身体を震わせた。
「んあ…っ」
「…腰、ほっそいな」
「んん、やぁ…く、くすぐったい」
「くすぐったいだけ?こっちは?」
乳首を抓む。
「あぁぁっ、そこは…!」
「赤くなってる」
ピン、と指で何度も何度もその胸の飾りをはじいた。熟れた果実のように色づいて主張するそれは、とても男のものとは思えないくらい扇情的だ。
「吉海さん、もう…脱がして」
脱がして、というのは勿論下半身のことだろう。ふと視線をそこに移すと、ズボンを押し上げている彼の性器が目に留まる。
「分かった」
何でもないような表情を取り繕って、ズボンに手をかけた。…あれ、脱がすってズボンだけじゃないよな。下着も脱がしていいものなんだろうか。そんな些細なことすら戸惑う程、自分には余裕がないのだということを思い知らされる。
「ちょっと…焦らさないでくださいよ」
「…そんなつもりは無いんだけど」
じっと考え込んでしまっていたら、焦らしているのだと思われたらしい。不満そうにまた首に吸い付かれた。ぞわりと背筋に何かが走る。…全くこの子は。
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