▼ 03
訳が分からず固まっていると、後頭部を思いっきり掴まれた。
そして。
「っ!?」
え。
唇に走る衝撃に、目を見開く。
うそ。なに、してんの、新太。
「んんっ、ちょ、なにを…っん」
顔を背けようとするも、今度は両手でがっちりと頬を固定されて動けない。角度を変えて再び口を塞がれる。
「ふ、ぁ、…やぁっ」
嫌だ、嫌だ。どうしてこんなこと。
無理矢理侵入してきた舌が、口内を好き勝手に蹂躙する。頬の肉を抉るように舐めあげられて、小刻みに身体が震えた。
静かな室内に、荒い吐息とリップ音だけが響く。聞きたくない。聞きたくないこんな音。耳を塞ぎたくなった。
「んぁ、ふ」
もう訳が分からない。口内に溜まった唾液は俺のものか新太のものか。
苦しくなって無意識のうちにそれを飲み込んだ瞬間、ちゅうちゅうと強く舌を吸われ涙が滲む。
「ん、んん」
苦しい。息が出来ない。酸欠になって死んでしまいそう。
もう無理だ、と思う度に丁度いいタイミングで口の間に隙間ができる。ひゅうっと音が鳴るのも構わず、酸素を求めて息を吸い込んだ。
歯列をいたぶるようになぞる舌。身体の奥から何かゾクゾクしたものが湧き上がってくる。
「ひ、ィあっ」
背筋が勝手にぴんと伸びて、コントロールがきかない。怖くなって思わず彼の肩に爪を立てれば、ふ、と笑う気配がした。
くちゅり。音を立てて離れた唇に、銀色の糸が伝う。
「…傑」
「はぁ、あ、らた…」
ぼうっと霞がかった頭を必死に引き戻し、彼に焦点を合わせた。が、滲んでしまってよく見えない。
でもその方が助かる。どんな顔をすればいいのか分からないから。
「…どい、ひどい、こんな…」
嫌だって、言ったのに。
俺の気持ちを知ってるくせに、どうしてキスなんか。
「っ、う…」
心の中がぐちゃぐちゃだ。溢れ出る涙を止める術もない。
「傑」
「…」
「傑ってば」
うるさい。うるさいうるさいうるさい。
返事をしない俺に、新太は深く深く息を吐いて…それから、言った。
「今、傑の頭の中には俺しかいないでしょ。姉ちゃんのことなんか忘れてたでしょ」
「っ」
「ねぇ」
図星。
姉さん、の、ことを、忘れた?俺が?
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