▼ 08
じわりと染まる彼の頬。ふふ、新太、不意打ちに弱いもんね。知ってるよ。
「…はぁぁ…もー…帰りたくなるからやめてってば、傑の馬鹿」
「帰りたくなる?なんで?」
「帰っていちゃいちゃしたい」
「…馬鹿は新太じゃん」
ぼそぼそと周りに聞こえない声で話していたら、注文していた寿司とお酒がやってきた。
「ほら、今日の主役は新太なんだから…もう食べなって」
ぱっと手を離す。危ない危ない。こっちまで赤面してしまうところだった。
いちゃいちゃって…そりゃ俺もしたいけど。でも昨日、あの後結局俺の家に泊まったわけだし、今日は新太をちゃんと家に帰さねば。
「口開けて」
「むぐっ」
悶々と考えていた俺の口に、新太が何かを突っ込んでくる。…これは、玉子?
「玉子好きでしょ。あと傑の好きないくらもあるよ」
「俺の好みじゃなくて、自分の好きなものを頼みなさい」
「いーの」
良くないよ。
「…あんたたち、そんなに仲良かったっけ?」
姉さんが訝しげにこちらを見つめている。
「傑と俺はお互いの身体の黒子まで把握し…」
「そう!俺と新太、仲良しだよね?」
余計なこと言わないでください。また背中をつねった。
「ふーん…まぁ、仲良しなのはいいけど…あ、傑に聞きたいことが」
「えっ、なに?」
「新太に昨日電話で聞いたんだけど、すっごい高価なお祝いくれたんだって?」
「高価…お祝い…いやそんなものは、」
「何くれたの?この子ってばちっとも教えてくれないんだもの」
俺が新太にあげたもの。高価なものなんてプレゼントした覚えは…。昨日の会話を思い出してみる。
『傑が、欲しい』
『…いいよ』
…まさか。
「あ、あの…」
新太に視線を戻す。にこりと微笑まれた。
…まさか、本気で、俺がプレゼントとか…言う?
「もらったよ、ちゃんと」
「っ、あ、あんなもの…お祝いにも何もならないでしょ…」
「俺が一番欲しかったものだ。あんなもの、なんかじゃない」
「…」
「ありがとう、傑」
「…ど、どういたしまして…」
恥ずかしすぎる。
「私にも教えて」
「俺と傑だけの秘密なんだから、姉ちゃんには言わない」
「なによー」
「ね、傑?」
俯いてそれ以上何も言えなくなった俺は、新太の言葉に頷くことしか出来なかった。
…新太の、馬鹿。
大好きだよ。合格おめでとう。
end.
prev / next