▼ 07
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「傑、もしかして具合悪いの?お腹痛い?」
「え」
姉さんが心配そうにこちらを見ている。横にいた新太が小さく噴き出した。
…誰のせいだと思ってるの。
「この間大学で大きな道具運んだから、ちょっと腰が痛くて」
「そう…傑はただでさえもやしっ子なんだから、無理しちゃだめよ?」
「あはは…」
乾いた笑いでごまかしながら、気づかれないように隣にあった背中の皮膚をつねる。
「痛っ」
「俺の方が何倍も痛いってば…身体中バッキバキなんだけど」
「…ごめんね?」
そんな笑顔を向けられたら、怒れないじゃないか。あーあ、嬉しそうな顔しちゃってまぁ。
翌日の晩。新太の大学合格祝いということで、一緒にご飯に連れて行ってもらえることになった。
最初は断ったのだけど、新太が合格したのは俺のおかげだとかなんとかで無理矢理連れ出された。俺はただちょっと勉強を見ただけなのに。
そして、もうひとつ不満なことがある。腰の痛みだ。
朝起きたときよりは多少マシになったが、正直歩くのが辛い。原因は言わずもがな…昨日、彼とした行為のせいだろう。
「傑、顔赤い」
「…もう、俺のことはいいから早く頼みなよ。新太のお祝いでしょ」
「はいはい」
笑いながらメニューに目を通す新太。ここは高そうなお寿司屋だ。俺一人じゃ絶対に来られない。
「じゃあ、姉ちゃん…これとこれ頼んどいて」
「分かった。傑は?」
「俺は…日本酒、熱燗で。寿司は姉さんたちが頼んだやつの余りでいいよ」
「はーい」
…姉さん、ちょっとお腹大きくなったな。瑛二さんが世話をやく彼女をなだめ、大人しくしてろとはらはらしている。微笑ましい。
「傑」
「ん?」
俺がじっと二人の方を見つめていたのに気づいたのか、名前を呼ばれた。
「なんて顔してるの」
ゆらゆら。不安そうに瞳が揺れている。まるで置いていかれた子供のようだ。
「だって、姉ちゃんの方見てたから…」
「いや…微笑ましいなって、それ以外何とも思わないよ」
「ほんとに?」
「俺が好きなのは新太だし」
もう姉さんを見ても心は痛まない。瑛二さんを羨ましく思ったりもしない。
それは全部全部、今隣にいる人物のおかげなんだ。
カウンターの下で、そっと新太の手に指を絡めた。
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