▼ 05
頭がオカシイ、としか言いようがない。風邪をひいているくせに人の声を聞いてチンコおっ勃ててるなんて理解不能だ。
理解不能、だが。
「…ふ、くく…っ」
同時に心底面白い。笑いが止まらなくなって、俺は取り繕うこともせずにその場で声を上げた。あぁ、本当にこの餓鬼、やってくれる。
『な、なんで分かんだよ…』
「俺の前で隠し事なんざ百万年早ぇんだよ」
『…っ、せ、センセーが無駄に良い声出すから悪いんだろ』
「ほう。責任転嫁か。良い度胸だな、変態のくせに」
『へんた…』
「やれよ」
『え?』
ドサリとソファーに身体を埋め、受話器を握りなおした。口元が悪そうにつり上がっているのが分かる。
「聞いててやるから、一人でしろって言ってんの」
『…っや、やだよ!なんでんなこと…』
「このままじゃゆっくり寝られないだろ?悪いモノ全部出してしまった方がいいんじゃねぇ?」
『い、言われなくても電話切ってからするつもりだったし…』
「駄目だ。今この場でやれ」
姿は見えない。けれども奴がどんな表情をしているのかが目に浮かぶようだった。悔しそうに唇を噛み締め、こちらを睨むのはポーズで…本当はイジメてほしくてたまらない。俺の声で、手で、嬲られるのを期待している。そういう顔だ。
「九条」
『…っ』
「下、全部脱げ」
『…は、はい』
微かな衣擦れの音が聞こえた。
「脱いだら好きに触れ。いつも自分でやってるみたいにしていい」
『んっ…わ、分かった…』
ぎゃあぎゃあと騒いでいた餓鬼の姿はすっかりナリを潜め、ただただ熱のこもった声だけが受話器から流れてくる。九条はすっかり興奮しきっているようで、耳に響く吐息が荒くなっていった。
『あっ…ぁ、んっ…ふ、ぁ』
「お前はどこを擦るのが好きなんだっけ?」
『さ、さきっぽ、が…んっんん、あ』
「あっそ。気持ちいい?」
『…っいい、きもちい、んぁっあ、は…』
嬌声の合間に、ぐちぐちという水音が混じって聞こえてくる。何だか楽しくなってきて、笑いながら口を開いた。
「先生、って呼んでみろ」
『せんせ…ッ、あぁっあ、せんせぇ、んんんぅっ!!』
一層声が高くなる。俺を呼んで興奮の度合いが増したのだろう。つくづく変態だ。
「恥ずかしくねぇの?そんなぐっちゃぐちゃで」
『だっ、だって、あぁっ、ん、きもちい、せんせぇ、せんせぇ…ッ俺、も、とまんな』
「まだイくなよ」
『んっんぅ、あ、な、なんでぇ…』
「後ろも触れ」
『え…?』
「ケツの穴弄れって言ってんだよ」
以前に一度だけ。たった一度だけ触れたことのあるその部位。俺だったら人に触れられるなんて死んでもごめんだが、こいつは思いの外良い反応を示してくれたと思う。
『で、できねーよ、そんな…っ』
「俺の指だと思えばいい」
『はっ!?』
「仕方ないから手伝ってやる。自分の指じゃなくて、俺に触られると思え。異論は認めない」
自分でも何故こんな要求をしているのか分からない。
ただひたすらに屈服させたい。俺の言うことを聞いて、自分の手で乱れ、屈辱に震えながらも抗えないその声を、どうしても聞きたいと思った。
『…どうすれば…いーんだよ…』
「指、濡らせ。唾液でもカウパーでもなんでもいい」
『ん…』
淡くしどけない息が直接脳内に入り込んでくる。奴の気が散らないように、じっと押し黙っている自分に気がついて少しおかしくなった。こんな風に気を遣うなんて、柄にもない。
『んっ、んん…ぬ、濡らした…』
「うつぶせになって、尻だけ上げろ」
『う、ん…っ』
しかし九条は俺の声を聞いて気を散らすどころか、どんどんと深みにはまっているようだ。電話越しに口を利くたびに声が甘さを帯びていく。
「指あてがって、入口からゆっくり広げていけ。乱暴にすんなよ。最初は一本だけにしろ」
『あ…ッ、ん、ぐ…わか、わかんねぇし…』
「痛い?」
『いたいっつうか…へ、変…絶対入んねーだろ、こんなん…』
「…」
仕方ない。こんなのが効くとは思っちゃいないが、やらないよりはマシだ。
「…九条」
『ん…ッ、あ、なに…!?』
「そんだけやらしい格好しといて、今更無理ですなんて通用しねぇんだよ」
『や、やらしいって…』
「やらしいだろ。雌犬みたいに尻突き出して、チンコぬるぬるにしやがって」
『…っして、ねぇ…』
「入れてほしいんだろ?俺のチンコ突っ込まれて、めちゃくちゃにされてぇんだろ?」
手の甲に唇を押し当て、わざと濡れた音を出す。
『ひ…ッ、な、なんのおと…』
「キス」
『えっ…ひゃあ!?』
もう一度。
『や、やめ…やだ、それ、いやだ、せんせぇ』
「いいから続けろ。もうヒクヒクしてんじゃねぇのか?」
『んぁっ、あ…やだ、音、んんんぅ…ッ!』
何度も何度もリップ音を立ててやると、九条はこれまでの比ではないくらいに大きな声で喘いだ。まるで自分が口付けられているような錯覚を起こしているのだろう。それが狙いだとは言え、ここまで思い通りの反応を示されると笑ってしまう。
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