僕の秘密と君の罠 | ナノ


▼ 01

瞬く間に始まった僕と彼の恋は、未だ褪せることなく続いている。

少しずつ、少しずつ。今までは何もかもが急だったけれど、これからは互いの存在を温め合うような、そんな関係になれたらいいなと思う。

「律」
「亮一さん、遅かったですね」

あ、しまった。ついいつもの癖で敬語を使ってしまうと、案の定彼は眉をひそめた。

「敬語使うなって言っただろ」
「う、ごめんなさい」
「俺は君より年上だが、その前に恋人なんだから」
「分かってます…あ」
「また使った!」

難しいと唸る僕。話し方一つでこんなにも距離が近くなったり遠くなったり感じられるものなのか、と新たな発見である。

「あ、そうだ。凛から買い出し頼まれてたんだった」
「じゃあ帰り道にスーパー寄って帰るか。楽しみだな、百瀬くんの手料理」
「おいしいよ。今日は中華だって」
「そうか。スタミナがつきそうだな」
「亮一さんはそれ以上つけなくてもいいんじゃ…」
「君の話だ」
「え、いや僕は」
「もう少し持久力がないと困る。足りない」

何が、とは怖くて聞けない。大体予想はつくけど。

そんな他愛のない話をしながら、大学から家までの道を二人で歩く。

「だんだん寒くなってきたね」
「そうだな」
「冬はすぐ手足が冷えるからやだなぁ」
「裏起毛タイツというものがあるそうだぞ」
「起毛?」
「冬のスカートスタイルには欠かせない一品だそうだ。律も履いてみればいい」
「…今スカートって言ったよね。絶対に嫌だ」
「なんで!もうネットでスカートもタイツ注文したのに!」
「なに勝手なことしてくれてんですか!!」
「タイツを破きながらセックスするっていう俺の夢をどうか叶えてくれ」
「どんな夢なの…」

相変わらず懲りない人だ。どうして僕にそんなに女の子の格好をさせたがるのかさっぱり分からない。

しかも自分が入れる側ならまだしも、入れられる側なのに。女装した男にいろいろされて、何が楽しいのやら。僕なら絶対嫌だ。死ぬ。

…まぁ、イケメンなのに僕の下で泣いているところは結構、いやかなり可愛いと思うけど…。

「俺は楽しみだな、冬」
「どうして?」
「クリスマスにお正月、おまけにバレンタインまである」
「亮一さんって行事とか気にする方なんだ」

意外。頭の中は研究でいっぱいなのかと思ってた。

ちょっと驚いた顔をする僕を見て、彼はふっと笑みを零す。形のいい唇が綺麗な三日月を描いた。

「以前は気にしなかったが…隣に律が居ると思うと、楽しみでたまらなくなる」

…なんだその乙女発言は。

よく恥ずかしげもなくそんなことを言えるものだ。

「…そ、そうですか…」
「あ、また敬語使った」
「今のは亮一さんのせいだよ!」

彼のストレートな表現にはいつまで経っても慣れることができないだろう。そりゃ、僕だって楽しみだよ。でもその気持ちを口に出すより、羞恥の方が勝ってしまう。

「罰としてあれだな。女装だな」
「なんで!!」
「だってそうでもしないとずっと敬語のままだろ」
「勘弁して本当に…」

ははは、と爽やかに笑う亮一さん。青ざめる僕。いつもと変わらない光景。当たり前になっていく光景。

とても、尊いな、と思った。大事にしようと、強く誓った。

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