▼ 08
「あう、僕、ごめんなさ、先に…」
ひぐひぐと喉を鳴らして顔を真っ赤にする律君に、胸がきゅんと切なくなった。
「…本当に、君は」
以前も確か、俺が好きだと言った瞬間に絶頂していた気が…そう、あれは、二度目のセックスのとき。
「そんなことされたら、期待するだろ」
涙に濡れる目元にキスをして、近くから彼の瞳を見つめた。ぐっと息を詰める気配がする。
期待するよ。だって俺に好きって言われるの、気持ちがいいってことだろう。
「…いいですよ」
「え?…あァッ!?」
「期待、しても…っ」
腰を掴まれ、下から突き上げられた。突然の刺激に背中が反る。
「待っ、りつく、おねが…っ、ちゃんと、聞かせ…ひやぁっ、あっ、だめぇ!」
「待ちません」
「あぁっん!いく、いくからぁぁっ」
「ん…っ、いいですよ。イってください…僕の、注射で?」
――な、んだ、その表情は。
ぺろりと自身の唇を舐め、妖艶に笑う律君。
こんな彼は知らない。知らない。全身に鳥肌が立った。
「いやぁっ!そこ、だめだめだめ!いく!いく!あぁぁぁっ!」
ごりごりと前立腺を抉られ、目の前が真っ白になる。気がつけば二度目の吐精を迎えていた。
「あぁ…イっちゃいましたね。治療だって言ったのに」
「は…だって、律君が…」
「えろかったですよ、亮一さん」
腹に飛んだ俺の精液を指に絡め、口元を歪ませながら舐めとる。普段とは違う彼の姿に、心臓がバクバクと音を立てている。
…か、かっこ、いい、なんて。
「律君…さっきの、もう一回言ってくれな…」
えっ。
すうすうと寝息を立てている律君。
「うそ…だろ」
さっきまで起きてたじゃないか。一瞬で眠りに落ちるとか、そんな。そんなひどいことがあってなるものか。
「律君、律君、起きてくれ!」
「んん…」
どれだけ揺さぶっても彼が目を開けることはなく、俺は仕方なくそのまま一緒に眠りについたのであった。
*
「…本当に申し訳ありませんでした」
亮一さんから聞かされた驚愕の事実。その場に手をつき深く深く頭を下げる。
…うう。死にたい。何やってるんだ僕は。酒癖悪すぎるだろう。もう二度と飲まないようにしよう。
彼は苦笑しながら僕の頭を撫でた。別にいいよ、と優しく言う。
「俺はどんな律君でも好きだから」
「っ」
「嬉しかったよ。酔ったときに一番に俺を呼んでくれて。それにあんな可愛い姿も見せてもらえて」
「いやもう本当勘弁してください…」
情けなくて涙が出てくるよ。っていうか早くこの服脱ぎたいんですが。
落ち着かずそわそわする僕の身体を、彼がぎゅっと抱きしめた。
「えっ、ちょっとりょういちさ…」
「律君、期待していいって、言った」
「…そっ、それは」
「俺はもう君のことを逃がしてやれない」
それでも、いいか。
…ずるい。そんな泣きそうな声で囁かれたら、拒めないじゃないか。
「…いーですよ」
背中に腕を回して抱きしめ返す。彼の体温が伝わってくるのが心地よくて、そっと目を閉じた。
今はまだ、好きなんて言えないけど。でも僕は存外この人にほだされているようだ。
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