シック・ラバー | ナノ


▼ 01

バイト先の先輩から動物園のチケットをもらった。俺は全くもって興味がないので、誰かにあげようと思っていたが…一人、喜びそうなやつがいることに気が付いた。

「うおー!すげえ!人めっちゃいる!」
「うろちょろすんな。迷子になる」

今にも駆け出してしまいそうな瑞貴の服を掴む。子どもかこいつは。試しに誘ってみたのはいいが、こんなに食いついてくるとは思わなかった。

「俺ライオン見たい!あとシロクマ!あ、こっちのふれあい広場ってやつは動物さわれるんかなー」
「落ち着け」
「だって動物園とか久しぶりすぎて」

…まぁ、楽しいならそれでいいけど。

瑞貴はきらきらと少年のように瞳を輝かせている。いつもだったら「離せよ!服が伸びるやろうが!」とか言って怒るくせに。

「早く行こうぜ!」

あ。

自然に手を握られた。…馬鹿じゃん、こいつ。ここがどこか分かってねーのかよ。周りにどんだけ人がいると思ってんだ。男が手繋いでる絵面なんて誰が好き好んで見るんだよ。もはや迷惑でしかないだろ。

「瑞貴」
「ん?」
「お前やっぱり馬鹿だな」
「いきなりなんだよ!!」
「手」
「手?…あっ」

気が付いた瞬間に面白い程に赤く染まる顔。かと思えば乱暴に振り払われる。痛いわ。力の加減ってものを知らないのか。

「こっ、これはつい」
「そんなに繋ぎたいなら繋いどく?お前すぐ迷子になりそうだし」
「繋がん!!!迷子にもならん!!!」

にやにやすんな、と口を尖らせる瑞貴。ここが外じゃなければキスくらいはしていただろう。どうしてこうも予想通りの反応を見せてくれるんだ。

まぁここでずっとこんな風にじゃれてるわけにもいかないので、さっさと行くぞとふくれっ面の瑞貴を促した。

「ライオン、見たいんだろ」
「…見たい」
「んー…じゃあこっちだな」
「ひふみは何が見てぇの?」
「俺は特に」

お前を見てる方が面白そうだし。



「…早く行けよ」
「だって、小さい子しかおらんし…」
「お前も似たようなもんだろ」
「俺は子どもじゃない!!」

ふれあい広場、と書かれたコーナーをちらちらと横目で見る瑞貴。そんなに気になるなら行けばいいのに。年齢制限とかないだろここ。

「…」
「…」
「…分かった。俺も一緒に入ってやる」
「えっ、いいの」

そんな顔で見られたら仕方ないし。最近俺はこいつに甘すぎると思う。まぁでもせっかく来たのに、心残りをさせるのも不本意だ。

幸いなことに子ども連れの親たちがたくさんいたので、俺たちが入ってもあまり違和感は無かった。

ウサギやモルモットなどの小動物が柵で区切られた芝生の上で放されている。見ている分にはいいが、触るのは…うん。遠慮したい。猫くらいだな飼ってもいいと思えるのは。

「おいでおいで」

瑞貴は早速しゃがみこんで、近くのウサギに手招きしていた。恥ずかしかったんじゃねーのかよ。

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